『終わらない歌』収録の
「天使達の歌」
名曲誕生の背景を
坂本サトル本人に訊く

「天使達の歌」は
自分のために書いた曲

──そこから「天使達の歌」の話に流れていくとするならば、歌詞を改めて聴きますと、JIGGER'S SONが活動休止することになって、その失意の中、独りでインディーズでの活動を決意した時の気持ちを綴ったものだったと想像しがちですけど、そんなに簡単な話でもないんですよね?
「そうですね。JIGGER’S SONの7枚目の『バランス』というアルバムができた時に、何か自分がJIGGER'S SONでやりたいことが完成しちゃったみたいな気持ちがあって。で、もう音楽に対してのモチベーションもなくなって、“どうしよう?”と考えた時にソロっていうのがあると。“あれ? ソロ、ひとりでやるってすごいかも!と思った時に、一気にまた音楽で“あれもやりたい! これもやりたい!”って出てきて、“じゃあ、半年くらいソロ活動やらせてもらおう!”と。当初はそれぐらいで終わるつもりだったんですよね。プロジェクト的にやって、自分の気分転換というかね。そのあとまたバンドに戻ろうと考えていから“活動休止”っていう言い方をしたんですけども、いざバンドの活動を休止してソロとして曲を書き始めたら、“そんなに簡単なもんじゃないぞ、これは”って、実際に動き出したから分かって。ちょうどコロムビア的には都合のいい話だったと思うんですよ。“契約どうしよう? JIGGER'S SONの契約はこれで終わりかな?”と思っていたところに、俺が“ソロでやりたい”って言ったから、“サトルのソロだったら契約するよ”ってことになって。それで、他のメンバーは事務所もなくなって契約金もなくなったからバイトを始めるわけですよね。そこら辺が、俺が人間的に未熟だったって思うところなんですけど、JIGGER'S SONの契約が終わるってことは、他のメンバーがどういう生活を強いられるかってことをまったく想像できていなかったんですよ。で、いざそうなったら、みんな、バイトを始めるわけです。“あれ? そうか、バイトをするんだ!?”とか思って。で、急に焦り始めるわけですよね。“あれ? これって…ヤバいな! ソロをやって売れないとバンドに戻れないぞ”って。で、焦るんですけど、曲を書いても書いてもコロムビアからは“ソロデビュー曲はもっとすごい曲じゃないとダメだ”って言われ続けるという」

──16曲くらい書いたらしいですね?
「16曲。8カ月かかったかな?」

──それは何ですか? 焦りみたいなものがあったから、うまく曲になっていかなかったみたいな感じなんですか?
「どうなんですかね? 曲はいっぱい作っていたんですよね。それこそ16曲。しかも、断片だけじゃなくて、しっかりデモテープまで作るような。毎日朝、リュックに水を入れて、家を出て、“ひたすら歩くと曲ができるんじゃないかな?”って(笑)。で、そうやって歩き回りながら歌詞を書いて曲ができて、“できました!”ってスタッフに連絡すると、コロムビアと事務所のスタッフが会議室で待ってて、“どれどれ、曲を聴かせたまえ”みたいな。で、聴かせると“う~ん”みたいな(苦笑)。その繰り返しでね」

──ご自身では自信を持って出すわけですよね?
「出すんですけど、やっぱり…何つうんだろうな? “これはソロデビュー曲とは違うかもな”って自分でもどこか分かっていて。だから、その時は“これでOKって言ってくれたらラッキーだな”くらいで。分かんなくなっているんですよ。だって、その後、ソロとして結果的には…ギター一本の弾き語りで全国を回るスタイルになりますけど、その時はそんなことはまったく考えていないから。自分のソロになってやるスタイルっていうのも何にも決まっていないし、ソロとしてどういうアーティストになるのかも…本当に試行錯誤しながら作っているけど、一向にOKが出ない。で、みんなのバイトの話を聞いて、“ヤベぇ! ヤベぇ!”ってなる。メンバーの何人かは家庭も持っていたから、奥さんの顔もチラつくわけで。マット(※註:メンバーの坂本昌人(Ba)。坂本サトルの実弟)なんて、弟なわけだし、自分の家族を苦労させているっていうかね。しかも、あいつ、コンビニの配送のバイトやっていたんですよ。トラックで。それで、ある時に怪我したんですよ。それを見た時には“…この怪我は俺がさせたんだな”みたいな。その時、初めて、“俺は取り返しがつかないことしたんじゃないか!?”って思うわけですよ。ソロでやっていくことを決めて何カ月も経ってから。で、そこで生まれたのが「天使達の歌」なんです」

──追い込んだんじゃなくて、追い込まれちゃった感じなんですね?
「そう! 追い込まれちゃった。その時31歳でしたけど、31年間の最大のピンチでしたね、自分としては。だから、もう自分のために書いたんですよね「天使達の歌」は」

──JIGGER'S SONでももちろん個人の気持ちを反映させた楽曲はあったと思うんですけど、ここまでギリギリの感情というか、そういうものを吐露したものはなかったでしょうね。
「なかったですね。今までとはまったく違う曲なんですよね。「天使達の歌」ってね」

──しかも、これも他のインタビューで見ましたが、歌詞が頭からスラスラッと出てきたそうで。
「もう一筆書きでしたね。実際この歌詞って30分かかっていないんですよ、書くのに。で、メロディーに至ってはもう5分以内みたいな。だけど、そこに辿り着くまでが何カ月もあったわけなんですよね。16曲もの曲を書いて。初めてでしたね、自分のために曲を書くっていうのは」

──ちょっと簡単な言い方で申し訳ないですけど、自分自身に対して“頑張れ!”みたいな。
「救ってあげたかったんですよ。“これ、救わないとヤバいぞ、自分が!?”って(苦笑)。メンタルが結構ヤバかった。で、僕、自ら命を絶つって考えたことないんですけども、その時は“もうこれは終わる”と思ったんですよね。今思えば、そこまで思い詰める必要なかったけど、その時はメンバーに対しての責任も感じていて、その重圧で“あっ、終わるかもな”っていう」

──《その旅を 静かに終える日が来ても》っていう歌詞は、まさにそういうことですね。
「そうなんですよ。死ぬ瞬間。この世を旅立つ時っていうのがこの曲の最後の場面なわけです。そこまで考えていましたね」

──これは間違ってたらごめんなさいですが、その後、インストアで「天使達の歌」を弾き語りされた時、涙されるお客さんもいっぱいいて、亡くされた伴侶に重ねたリスナーもいたという話を聞きました。やっぱり“死の匂い”というものはありますもんね。
「ありますよね。これはもうピンとくる人はピンとくるわけですよね。“あっ、これ、死ぬ時の歌だな?”っていう。…まぁ、誰でもピンとくるか、“ゴール”って言っているからね」

OKMusic編集部

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