【独断による偏愛名作Vol.2】
Valentine D.C.が
ロックバンドとしての
誇りを堂々と示した『GENERATION』

サイケ、プログレも柔軟に吸収

『GENERATION』中盤以降は、Valentine D.C.の器用さ、キャパシティーの広さがさらに露わになっていく印象がある。まずM6「扉」。アコギのアンサンブルを聴かせるミドルチューンであることに加え、それこ呼応したかのように、Aメロで若干ウィスパー気味の声を聴かせるボーカルがいい。発表された当時は“こういう表情も見せるんだ!?”という新鮮さを覚えたようにも記憶している。ドラマチックに展開するサビもいいと思う。

M7「ill」はタイトル通り、不穏なサウンドが支配するナンバーで、マイナーというよりも、はっきり暗めな曲と言っていいように思う。ストリングスがあしらわれ、プログレの匂いを漂わせている。楽曲の出だしがテープを再生したようなエフェクトがかかっているし、実験的な取り組みを意識したところもあったのだろう。

M8「二人の唄」は、歌はフォーキーで可愛らしい感じもありつつ、ワウペダルを使ったようなエレキギターがかなり耳に残る。ベーシックはシンプルなバンドサウンドで、間奏を聴く限りではさわやかさ一直線に仕上げることもできたように思うが、そうしなかった辺りに、これまた当時のValentine D.C.の意気込みのようなものを感じるところではあろうか。M6~M8はいずれも、歌はもちろんのこと、ギターの主旋律もメロディーアスであり、楽曲の骨子はしっかりとしているところをさらにブラッシュアップしようと腐心したことを想像できるようにも思う。

M9「MY GENERATION」は、さすがにタイトルチューン。本作中、最も勢いのあるナンバーと言ってよかろう。ベースラインは結構動くし、後半でギターがヴォーカルとのユニゾンを聴かせるところなども注目ポイントではあろうが、やはりグイグイと迫るバンドサウンドが素晴らしい。疾走感あふれるドラミング、M2同様、コーラスというよりもシャウトと言っていいサビでの《ジェネレーション MY GENERATION》が全てを物語っているようにも思える。しばらくの間、ライヴでのハイライトとして欠かせない楽曲になっていたようにも記憶している。

そんな勢いで迫るM9からM10「One」へ続くのも興味深い。全体的にはハードな音のままだが、フルート風な音色をフィーチャーし、歌に重なるバンドサウンドはボサノヴァタッチ。M6~M8、あるいはM3で見せていた新たなるアプローチはそれらだけじゃなく、まだまだ続いていくことを示しているようでもある。バンドのポテンシャルをダメ押ししていたようにも思う。

アルバムの締め括りは、M11「Cradle」。この歌のメロディーラインには“このリズムしかないでしょう!”というようなロッカバラード。ヘヴィに迫るギターのストローク。シンバル多めのドラミング。どっしりと低音で支えるベース。そこにエレピも加わったアンサンブルは重厚で、本作のフィナーレに相応しい。迫力たっぷりに歌い上げているボーカルも実にいい。そもそも声質が色っぽいので本領発揮するのは長い音符であることはM1、M3でも示したが、M11のサビのやや大仰にも感じるメロディーの抑揚は、まさに水を得た魚の如し。歌もまたアルバムの大団円にぴったりである。

ザっと全曲を振り返ってみた。そのバンドサウンドもさることながら、改めて強調しておきたいのは、どれもメロディーのポピュラリティーが高い点である。キャッチーな歌やギターリフというのは優れたロックの必要条件であるように思うが、本作はそれをクリアーしているのは間違いない。シンガロングにも十分に耐え得るものばかりであるので、ライヴはさぞかし盛り上がったことだろう。実際そんなライヴを観た記憶もある。冒頭でも言ったように、ここまでメロディーが立ったものばかりだと、例えばハードコアっぽいものであったり、ラップみたいなものであったり、小ネタを1、2曲入れるのもありだった気もするが、仮にそうだったら、アルバム全体のバランスも大きく変わっていただろうから、これが正解なのだろう。

OKMusic編集部

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