SHERBETの
1st『セキララ』から考察する
浅井健一の
アーティストとしてのピュアさ

アコースティックならではの良さ

純粋、ピュアを感じるのは歌詞だけではない。そのサウンドからも如何なく感じられるところだ。特にバンドの1stアルバムであるこの『セキララ』は、アコースティックな生音が多いだけに余計にそう思う。ザラついたアコギで極めてロック的なリフレインを聴かせるM2「760」もあれば、明るく軽快なストロークを鳴らすM7「Black Butterfly」やM8「ひまわり」もある。アコギと言えども、楽曲によってスタイルの異なる演奏を聴かせているところに、変にカテゴライズすることのないフリーダムなスタンスを見出せる。そこも特徴的ではあろう。

また、この時期はBJCと並行してSHERBETSをやっていたことを考えると、聴き手としても、どうしてもそこに両バンドの差異を見出してしまうところではある。エッジーなギターサウンドとシャープなリズムを信条としていた(と思われる)BJC。少なくとも1stの時点では、ギターサウンドにおいてそのBJCとは真逆と言ってアプローチも見せていたSHERBETS。どちらがいいとか悪いとか言うことではなく、案外ベンジー自身も当時はBJC]と異なるスタイルを求めていたのではないかと想像してしまうサウンドではある。そうだとしたら、それもまたアーティストとしての純粋さを感じるところではなかろうか。ハードさを指向したあとで柔らかなものを求める気持ちは我々も分からなくもない。

話が少しズレた。『セキララ』に戻す。本作で最もアコースティックの良さを感じられるのはM4「ソリ」ではないかと個人的には思う。エレキギターは電気的に音を増幅させるのでアンプで音の大小を調節するし、エフェクターを介せばさまざまにトーンを変化させることもできる。対して、アコースティックギターは、基本的には電気を介さないので、音の大小、トーンの強弱を決めるのは演者のみである。大きい音を鳴らす時には強く弾かなければならないし、小さく鳴らす時は優しく弾くことになる。また、一般的にアコギはしっかりと弦を押さえないといけないと言われていて、エレキギターよりは演奏が難しいとも言われる。プレイヤーの力量が問われるわけだ。M4はイントロからギターの強弱が分かるし、楽曲が進むに連れてテンションが上がっていくことがよく分かる。人が弾いているということをはっきりと認識できるのである。ギターだけではない。すべての楽器にしっかりと抑揚がある。M4に関しては個人的にはドラムもいいと思う。サビに突入する前のフィルイン。Ringo Starr的と言ってもいいだろうか。タム、フロアタムを多用したドラミングは聴いててアガるし盛り上がる。問答無用にカッコ良い。

バンドアンサンブルで言えば、M9「ゴースト」を『セキララ』のベストテイクに推したい。ピアノのループにハモニカやギターが重なっていくM6「麦」も素晴らしく、甲乙付け難いけれども、個人的には僅差でM9に軍配を上げた。まず、先に述べた通り、ド頭から強弱がはっきりと分かるアコギの音色がいい。しかも、リズムが3拍子というのが新鮮だ。アルバムの後半にあることで、作品をよりバラエティーにしているとも思う。そこに、そのアコギの音の中を縫うかのようなピアノが奏でられる。この2つのアンサンブルだけでも見事なのだが、そこに文字通りの3拍子をタンバリンが鳴らし、ベースも重なっていく。何かひとつの楽器が突出するわけではなく、それぞれが自分の持ち場を堅持しながら楽曲が展開していく様子は、このバンドの貫禄すら感じさせるところだ。1番の歌終わりのギターソロの箇所では、ピアノがスムーズに3拍子へと変化するところも実にいい。その臨機応変な感じ(?)にはメンバー間での意思疎通が良好なこともうかがえるし、こういうところがバンドならではの面白さということもできると思う。圧巻なのは後半、サビの繰り返しのあと、それぞれの楽器の音が密集していく箇所。明らかにテンポが速くなっていくが、グルーブは決して損なわれない。これもまたバンドらしさであり、バンドの醍醐味と言えるだろう。テンションの高さに思わず聴き手も煽られてしまう演奏である。そのテンポの速さを粗さと見る向きもあるかもしれない。だが、仮に粗さの表れだったにせよ、そこは好意的に受け取りたい。《とまどいながら話す言葉は 何よりもきれいさ》とは、こういうことも含まれているのではなかろうか。そんなふうに思う。

OKMusic編集部

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