尾崎豊の瑞々しくも真摯な
10代のライヴ風景を閉じ込めた
ライヴアルバムの傑作
『LAST TEENAGE APPEARANCE』
メロディメーカーとしての尾崎豊
と、個人的な見解を交えて、収録曲を振り返ったが、最後に本作を久しぶりに聴き返して感じたことをひとつ。それは、10代の尾崎豊が作った楽曲群のメロディーラインの確かさだ。尾崎豊というと、先にも述べたようにM11「15の夜」の《盗んだバイクで走り出す》や、それ以外でもM1「卒業」の《夜の校舎 窓ガラス壊してまわった》といった歌詞から、ややもすると今も1980年代における無軌道な若者の代弁者という捉え方が大勢ではなかろうか。それはそれで間違いではないかもしれないが、それを中心に語るのは、いささか偏り過ぎではないかと思う。10代であの表現力は、稀に見る才能の傑出であったことは疑いようがなく、歌詞に注目が集まることもむべなることではあろう。それも分かる。だが、日本人の琴線を刺激する親しみやすい旋律に乗せられたからこそ、当時、その楽曲群が多くのティーンエイジャーに届いたのではないだろうか。今回その想いを強くした。本作はライヴコンサートを収録したものでありながら、ヴォーカルパフォーマンスが実に丁寧なのだ。M4「Bow!」のラストのサビでややフェイクがあったり、先に指摘した通り、M8「Scrambling Rock'n'Roll」やM9「十七歳の地図」では客席にマイクを向けたりしているものの、案外…というべきか、勢いに任せて歌っているような箇所がほとんど感じられない。ひとつひとつの音符を丁寧に追っている印象だ。そう思うと、M5「街の風景」とM6「ダンスホール」がこのテンポになったことにも勝手に納得するところではある。真偽のほどは不明だが、メッセージ性の強い歌詞であるがゆえに、ライヴステージにおいては特に、トーキングスタイルとなってもおかしくないところを、生真面目とも思えるほどにしっかりと歌っているように思う。10代ならではの真摯な姿勢が浮き彫りになっているとも言えるかもしれない。“ライヴ盤になることが決まっていたからちゃんと歌ったんだろう?”と思われるかもしれないが、[本作はソニー専属の音楽プロデューサーである須藤晃によって企画され、10代の活動記録の集大成として制作された。(中略)尾崎豊自身はこのアルバムの発売を了承したものの(中略)ミックスダウンにも立ち会わず本作には全く関与しなかった]というから、音源化の意識が強くはなかったようで、これがいつものヴォーカルスタイルではあったようだ([]はWikipediaからの引用)。歌詞をしっかりと伝えるために丁寧にメロディーの抑揚を付けたのかもしれないが、いずれにしても決してメロディを疎かにしなかったアーティストであったことは間違いない。この機会にそこは念押ししておきたい。
TEXT:帆苅智之