尾崎豊の瑞々しくも真摯な
10代のライヴ風景を閉じ込めた
ライヴアルバムの傑作
『LAST TEENAGE APPEARANCE』

メロディメーカーとしての尾崎豊

DISC2後半(アナログ盤ではB面)は“That’s 尾崎豊”のつるべ打ち。もはや解説不要だろうが、蛇足を承知で強いて述べるなら──。M11「15の夜」は、《盗んだバイクで走り出す》というフレーズからエキセントリックなイメージが強い人も少なからずいるかもしれないし、一部トーキングスタイルなヴォーカルもあるにもあるが、改めて聴くと実にメロウなナンバーである。初めて聴く人も自然と聴き入ってしまうような魅力があると思う。M12「I LOVE YOU」もメロウで、柔らかいメロディーを持つバラード。綺麗なイントロも印象的だし、この主旋律は尾崎の少年っぽさの残る声質を最も的確に表すことができるメロディラインのような気がする。ロングセラーになったことも、多数のアーティストにカバーされたことも納得の、名曲中の名曲である。M13「シェリー」はツアーの最終日のラストだけあってか、だいぶ声が枯れているようだが、そこがまた何とも味わい深く感じられるし、ライヴならではのスリリングさを助長しているようでもある。ちなみに、このM11、M12、M13の3曲は、1991年の『TOUR 1991 BIRTH』と『TOUR 1991 BIRTH ARENA TOUR 約束の日 THE DAY』でもアンコールで披露されている。まさに自他ともに認める代表曲なのである。

と、個人的な見解を交えて、収録曲を振り返ったが、最後に本作を久しぶりに聴き返して感じたことをひとつ。それは、10代の尾崎豊が作った楽曲群のメロディーラインの確かさだ。尾崎豊というと、先にも述べたようにM11「15の夜」の《盗んだバイクで走り出す》や、それ以外でもM1「卒業」の《夜の校舎 窓ガラス壊してまわった》といった歌詞から、ややもすると今も1980年代における無軌道な若者の代弁者という捉え方が大勢ではなかろうか。それはそれで間違いではないかもしれないが、それを中心に語るのは、いささか偏り過ぎではないかと思う。10代であの表現力は、稀に見る才能の傑出であったことは疑いようがなく、歌詞に注目が集まることもむべなることではあろう。それも分かる。だが、日本人の琴線を刺激する親しみやすい旋律に乗せられたからこそ、当時、その楽曲群が多くのティーンエイジャーに届いたのではないだろうか。今回その想いを強くした。本作はライヴコンサートを収録したものでありながら、ヴォーカルパフォーマンスが実に丁寧なのだ。M4「Bow!」のラストのサビでややフェイクがあったり、先に指摘した通り、M8「Scrambling Rock'n'Roll」やM9「十七歳の地図」では客席にマイクを向けたりしているものの、案外…というべきか、勢いに任せて歌っているような箇所がほとんど感じられない。ひとつひとつの音符を丁寧に追っている印象だ。そう思うと、M5「街の風景」とM6「ダンスホール」がこのテンポになったことにも勝手に納得するところではある。真偽のほどは不明だが、メッセージ性の強い歌詞であるがゆえに、ライヴステージにおいては特に、トーキングスタイルとなってもおかしくないところを、生真面目とも思えるほどにしっかりと歌っているように思う。10代ならではの真摯な姿勢が浮き彫りになっているとも言えるかもしれない。“ライヴ盤になることが決まっていたからちゃんと歌ったんだろう?”と思われるかもしれないが、[本作はソニー専属の音楽プロデューサーである須藤晃によって企画され、10代の活動記録の集大成として制作された。(中略)尾崎豊自身はこのアルバムの発売を了承したものの(中略)ミックスダウンにも立ち会わず本作には全く関与しなかった]というから、音源化の意識が強くはなかったようで、これがいつものヴォーカルスタイルではあったようだ([]はWikipediaからの引用)。歌詞をしっかりと伝えるために丁寧にメロディーの抑揚を付けたのかもしれないが、いずれにしても決してメロディを疎かにしなかったアーティストであったことは間違いない。この機会にそこは念押ししておきたい。

TEXT:帆苅智之

アルバム『LAST TEENAGE APPEARANCE』1987年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.卒業
    • 2.彼
    • 3.Driving All Night
    • 4.Bow!
    • 5.街の風景
    • 6.ダンスホール
    • 7.存在
    • 8.Scrambling Rock'n'Roll
    • 9.十七歳の地図
    • 10.路上のルール
    • 11.15の夜
    • 12.I LOVE YOU
    • 13.シェリー

OKMusic編集部

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