尾崎豊の瑞々しくも真摯な
10代のライヴ風景を閉じ込めた
ライヴアルバムの傑作
『LAST TEENAGE APPEARANCE』

さまざまな尾崎豊の魅力を再確認

『LAST TEENAGE~』は2枚組で、アナログ盤ではM1~M4がDISC 1 のA面。そして、M5~M7が同B面。ここでのナンバーがまた粋だ。M5「街の風景」は1st『十七歳の地図』のオープニングであると同時に、尾崎がデビューするきっかけとなったCBSソニーのオーディション『CBS SONY Sound Development Audition 1982』で歌われた楽曲の中のひとつである。ファンならばご存知ことと思うが、この楽曲はデモテープの段階で10分を超えており、プロデューサーである須藤晃氏のアドバイスの元、時間が短縮され、5分程度になってアルバムに収録された。その際に歌詞も削除されている。それが以下の部分だ。

《人間喜劇さ その通りだろうよ/だけど何がこうさせるのか わからないよ/愛情の渦だよ 窮屈になるだけ/だけど誰が止めるというの/祈るしかない生き物よ》(M5「街の風景」)。

ライヴではこの部分もしっかりイキている。しかも、この『LAST TEENAGE~』バージョンはスタジオ録音に比べてテンポも落ちている。そうかと言って、まったりしているかと言えば、その逆で、1番の《雑踏の下埋もれてる歌を見つけ出したい》の《歌を》をリフレインしたり、サウンド面では、2番の《黙ってておくれ》のあとでブレイクを入れたりと、尺は長いものの、極めてスリリングなテイクに仕上がっている。

テンポが落ちていると言えばM6「ダンスホール」も同様。ちょっと個人的な思い出話をさせてもらうと、自分が尾崎豊をちゃんと聴いたのはたぶん『LAST TEENAGE~』で、熱狂的な尾崎ファンの友人の車に乗せてもらう度に必ずと言っていいほど流れていたので、自然と馴染んでしまったような格好だった。そののちに『十七歳の地図』を聴くことになるのだが(それも彼の車の中だったように思うが)、そのスタジオ録音版はテンポが速めな上、どこかさわやかな感じがして、正直言って違和感はあった。よって、今も個人的にはこのライヴ版のほうが好みだ。歌詞の世界観にある気怠さというか、寂しさ、虚しさ、あるいは優しさといったものはこちらのほうが強く感じられるように思う。そんな、言わばじっくりと聴かせるナンバーに続いては、一転、ポップでアップテンポなM7「存在」へと展開(コンサートでは、M6のあとは「TEENAGE BLUE」「米軍キャンプ」「坂の下に見えたあの街に」「SCRAP ALLEY」と続いて、M7ときたようである)。シリアスさも尾崎の魅力だが、こういう弾けるようなビートものもまた尾崎であることを実感させられる。ソウルテイストのR&R。サビで楽曲を引っ張るブラスが実に楽しいし、ハツラツとしたピアノもいい。

CDで言うところのDISC2は、それほど尾崎豊に詳しくない人でもそれが彼のものだと認識できるであろうナンバーを多数収録。粋の良いロックナンバー、M8「Scrambling Rock'n'Roll」はファン以外には馴染みが薄いかもしれないが、それでも、コール&レスポンスの《自由になりたくないかい/熱くなりたくはないかい》辺りで尾崎らしさを感じとれると思う。ちなみにこの楽曲、初めて本作を聴いた時にも間奏が長い印象だったが、これは尾崎が照明器具を取りつけた足場に昇って観客にアピールしていたからなのだとか。だとすれば納得だし、こういうのもライヴアルバムらしい味わいであろう。

軽快にドラムのビートが鳴らされる中、このアルバムの中で唯一のMCを露払いにして披露されるのがM9「十七歳の地図」。サックスのイントロがスタジオ収録音源以上に元気の良い印象だし、改めて聴くとサビ前が結構ポップであることが分かって、聴いてて自然とアガる。歌がやや粗いのはライヴゆえに当然としてそこは差っ引いても、歌にはライヴならではの感情が込められているような気がするのは筆者の気のせいだろうか。

次のM10「路上のルール」は、これも3rd『壊れた扉から』収録曲で、これもまたおそらくこのツアーの時までの聴いていたオーディエンスは少なかったと思われる。だが、この楽曲もイントロからして実にポップであるからして、場内の盛り上がりには何ら問題もなかったと思わせる。実際のステージではこの間で「愛の消えた街」が演奏されており、本作ではM9の終わりがカットアウトされてM10のイントロ(というか尾崎のカウント)につながっているが、M10のアウトロでの観客の歓声はこの楽曲を受け入れた証だろう。

OKMusic編集部

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