カーネーションが6作目で辿り着いた
『a Beautiful Day』は
ロックバンドならではの
マナーに大衆性を融合させた傑作
歌詞に見るロックのフリーダム
M11「世界の果てまでつれてってよ」は頭打ちのリズムが力強いソウルナンバーで、これもブラスが効いている。Aメロはフォーキーでありつつ、Bメロ、サビへと展開していく、これも完全なJ-POPの構成。2番終わりで転調する辺り、聴き手を飽きさせない工夫が成されていることも分かる。サビでウォールオブサウンドを聴くことも出来、M10同様にロック、ポップスのマナーに忠実なスタンス(というか、ロック好き、ポップス好きの嗜好)を垣間見るようで楽しくもある。
…と、ザっと収録曲を解説してみても、カーネーションの楽曲は、ポップさとマニアックさを上手く融合させていたり、大衆を指向しているようでありつつもロックバンドらしいサウンドは損なわれていなかったり、硬軟合わせ持っていることが分かる。また、それが一楽曲内のことだけでなく、例えばM1、M3があって、M5、M8があるように、アルバム内でも硬軟が示されている。こうした幅広さはバラエティーに富んでいると言い換えることもできるだろうし、バンドの視野の広さ、自由さと呼んでよかろう。
最も硬軟併せ持っていると思わせるのは歌詞である。メロディー、サウンドではポジティブな印象が強いM1「Happy Time」とM3「It's a Beautiful Day」にしたところで、歌詞もポジティブ全開かと言ったらそうでもない。こんな感じである。
《Happy Life Time/とろける太陽の下で/小さくひろげた指の/すきまからのぞく景色は最高なのに/今日もピンボケ》《毎日のように/あてがはずれちゃう/だけどそれもいいね/まぁ のんびりといこう》(M1「Happy Time」)。
《It's a Beautiful Day yeah yeah yeah/It's a Beautiful Day All right/仕事も彼女もDJも車もTVもユーウツも/いらない バイバイバイ》《映画もギターもバイクもただの犬も新聞も課長さんも/いらない バイバイバイ/It's a Beautiful Day/でもLonely》(M3「It's a Beautiful Day」)。
M1にしてもM3にしても、そこで描かれている風景はスパッと突き抜けているようだけれども、《ピンボケ》だの《あてがはずれちゃう》だの、《でもLonely》だの、そこでの心情は突き抜けている様子がない。アルバムのフィナーレであるM11「世界の果てまでつれてってよ」にしても、タイトルだけで見たら、視界良好な印象を受けるが、そうでもない。
《世界の果てまで/たどりつけるのかな/だれもいない場所へ/Far End of the world》《古ぼけたバケツがころがるだけの Midnight/あせるほどさみしげに犬がないてる/やっぱりぼくには反省の色もみえないし/あれが恋といえるかどうかもわかんない》《ハイ! ごきげんなベイビー/I'm Walking Down the Streets Again/気のむくままぼくは/風にゆられて/でてゆくよ Down Town/でてゆくよ Down Town/でてゆくよ Down Town》(M11「世界の果てまでつれてってよ」)。
《たどりつけるのかな》と言ってて、しかも《風にゆられて/でてゆくよ》なのだから、ある意味で主体性がないようにも思える。ここもまた微妙なスタンスだ。でも、冒頭でも述べたようにそこがいいのだと思う。パンクロックのようなアグレッシブさもロックの醍醐味ではあるが、こうしたスタンスもまたロックならではのフリーダムさの発露とも言えるだろう。
そんなカーネーションだからこそ…なのだろう。バンド史上最高セールスとなった『a Beautiful Day』に辿り着くまでに10年近い歳月を有したと書いたが、その後、メンバーは変わって、現在は直枝政広(Vo&Gu)と大田譲(Ba)のふたりとなったものの、現在も精力的に活動中である。気付けば2023年には結成40年を迎えようとしている。ロックバンドとして必要なもの。それはここにあるのではないかと感じさせた『a Beautiful Day』であり、カーネーションである。
TEXT:帆苅智之