【ライヴアルバム傑作選 Vol.11】
黒夢の
『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT』は
清春のスピリッツを
最もよく表した反骨の一枚

常に前作を凌駕した音楽性

全国各地のライヴハウスを細かく回ることになり、必然的にライヴ活動が中心となった黒夢は、その音楽性も微妙に、しかし確実に変化していった。端的に言うと、ミドル~スローが少なくなっていく。メジャー1st『迷える百合達 〜Romance of Scarlet〜』で言えば「Aimed Blade At You」「百合の花束」「romancia」、3rd『feminism』では「白と黒」「情熱の影―Silhouette―」「くちづけ」「至上のゆりかご」など印象的なミッドナンバーがあったし、その妖艶な雰囲気は初期の黒夢のイメージになくてはならないものでもあったように思う。「百合の花束」はアルバムのタイトルチューンと言ってもいいような楽曲だ。しかし、次第にアルバム作品においてはその比率が少なくなっていった。

まったくなくなったわけではない。4th『FAKE STAR 〜I'M JUST A JAPANESE FAKE ROCKER〜』には、「夢」というその曲名からしてバンド史における重要楽曲と指摘したいようなバラードもあるし、これもタイトルが意味深なミッドスカ「REASON OF MY SELF」も収められている。だが、これ以外はアップチューンで、17曲中(SEを除けば12曲中)ミドルは2曲だ。5th『Drug Treatment』では、「MIND BREAKER」は比較的テンポはゆったりしているものの、これはラウドロックに分類されるものだろうし、「LET'S DANCE」や「BLOODY VALENTINE」は同アルバムタイトルの他楽曲とは異なるバンドアンサンブルではあるがミドル~スローではない。6th『CORKSCREW』に至っては全編パンク、ロックンロールと言っていいアルバムとなった。1998年から1999年にかけては、ライヴバンドとしてのスタンスを固めつつあった時期のアルバム『FAKE STAR』収録曲にしても、そこに収められたシングルナンバーの「BEAMS」「SEE YOU」「ピストル」をライヴで聴いた記憶がほぼない。その一方で、メジャーミニ『Cruel』に収録された「Sick」、『feminism』収録の「カマキリ」といったブラストビートで迫るロックチューンがライヴで欠かせない楽曲になっていたことを今もはっきりと覚えている。

黒夢は1999年1月29日に無期限活動停止することなり、清春はすぐさま新たなバンド、SADSを始動させる。間髪入れず、同年6月にはUKツアーを行ない、7月にメジャー1stシングル「TOKYO」を発表したのだから、やや語弊がある言い方だが、SADSは黒夢から地続きのものであったと見ていいだろう。何しろSADSの最初のギタリスト、坂下たけとも(Gu)は、1998年から1999年にかけての黒夢のサポートメンバーであったし、同じ時期にドラマーとして黒夢をサポートしていた満園英二(Dr)はのちにSADSに参加することになる。SADSは黒夢後期とそうメンバーは変わらないのである。ただ、音楽性はこれもまた微妙に変化していった。1st『SAD BLOOD ROCK'N'ROLL』は、タイトル通りと言うべきか、やはり速いビートのロックンロールが目立つ作品ではあるものの、「Loveless Lover」「憂鬱という名の夢」といったミッドナンバーも収められており、黒夢後期とは若干、勝手が違っている。さらに注目なのはその後、2ndアルバム『BABYLON』において…である。『SAD BLOOD~』とは明らかにベクトルが違う、俗に言う“ノリのいい”ロックンロールを集めただけではなく、初期黒夢にも通じるダークな世界観を見せるなど、敢えてポップさと距離を置いたような作品であったのだ。この辺の考察は、当コラムで『BABYLON』を取り上げた時にしているのでそちらをご参照いただきたいが、黒夢からSADSの1st、2ndに至る話でも、清春が創作活動においても自らに反発してきた人であることがよく分かる。一所に安住を求めないアーティストなのであった。
■Sadsの2ndアルバム『BABYLON』から考える
アーティスト・清春の指向性とバンドとの相性
https://okmusic.jp/news/342837

OKMusic編集部

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