割礼の『PARADAISE・K』に触れ、
そのロックバンドの姿勢を想う

当時のパンクとは一線を画す歌詞

歌詞は明らかに当時の日本のパンクとも初期パンクとも異なる。以下に『PARADAISE・K』収録曲の歌詞を記すが、本作には歌詞カードがないようで、これは筆者が書き起こしたものである。それゆえに、平仮名、カタカナ、英語などの表記違いはあるだろうし、同音異語があるかもしれない。また、聴き間違いもあるとは思う(大幅に聴き取りが困難だった箇所は掲載を見送った)。そこは予めご容赦いただきたい。楽曲で歌われていることを大掴みに捉えてもらう意図での掲載である。

《今宵限りの合言葉じゃなく 忘れかけてた合言葉じゃなく》《忘れられない夏の光と 思い出せない僕らの輝き》(M1「きのこ」)。

《喉は苦しく 僕は決して 声は出さない 生憎緩やかに》《あなたの影が キラキラ眩しく 光伸びるから 潜り込め 僕のベッドに》(M2「ベッド」)。

《夏の思影と 寝不足の昼下がり 目玉が割れる 痛む 手足が痺れる》《夏の夜の 苦し気な情景を 昨日も思っていた》《稀代の不幸と思ってほしいね》《星降る夜に 狂い咲いた 虚しいだけの 淫らなお前》(M3「夏の思影」)。

《競い合う悪癖病癖 競い合う悪癖病癖》《おやすみ かよわいゲーペーウー さよなら 素敵なゲーペーウー》(M4「ゲーペーウー」)。

《お前のために 死んでもいいし お前のために 別れてもいいさ》《僕の夜を 君に貸すから 夢の島へ 君をさらうぜ》《中途半端な 僕の理性は 空腹時の 悲しみだけさ》(M5「ラブ?」)。

《チュウイングガムの女高生 高校生 続けてほしい 僕が死んでしまうまで》《明日会おうね》(M6「チュウイングガム」)。

“Tokyo is burning”とか“No Future”みたいなことは綴られていない。当時のパンク特有の攻撃性は感じられないし、そればかりかロックならではのメッセージ性もおおよそ感じさせないリリックである。M4のタイトルは、旧ソ連の国家政治保安局の略称であろうが、だからと言って、そこに重ねた物言いがないばかりか、政治的な意図は見られない(たぶん)。文学的と言ってしまうと簡単だが、散文的、現代詩的な作風と言えるだろう。私的な内容であることは想像させるが、そう言い切れるものでもない。意味がはっきりと汲み取れるものではないが故に、受け取り方は聴き手によってさまざまだろう。少なくとも、この歌詞からいわゆるパンクロックを導き出すのは難しいことは間違いない。

こうしてサウンド面、歌詞面を探ってみても、パンクなのか、サイケなのか、ニューウェイブなのか、明確な線引きはできない『PARADAISE・K』であるし、この頃の割礼である。さて、本作以降、このバンドはどう進んでいったのかと言えば、これまた前述を参照すれば、サイケデリックロック、スローロックへと発展していたのだと考えられる。実際、『セカイノマヒル』(2003年)には、「ベッド」の別バージョンが収録されている。これが、かなりテンポを落としている上、重めのストリングスも配されていて、まさにサイケデリックロックな仕上がり。この辺を聴く限り、てっきりアンビエントな方向へ行ったものだとばかり思っていた。しかし、その後にリリースされたライヴ音源『LOVE?』(2019年)を聴いて軽く驚いた。ここには、「ラブ?」「ベッド」が収録されているのだが、テンポは『PARADAISE・K』収録版と大きく変わらないのだ。決して緩くなっていないのである。う~ん……掴みどころがない。無論ロックバンドに“こうあらねばならない”という決まり事はないので、何をどうしようとバンドの自由である。活動歴がよく分からないとか、それゆえにその変遷も含めて音楽性も捉えられないとか、それを不思議と思うのはこちらの勝手な話である。あらゆる部分において、バンド本意で活動しているという意味では、割礼ほどにロックバンドらしいロックバンドはいないのかもしれない。

TEXT:帆苅智之

アルバム『PARADAISE・K』1987年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.きのこ
    • 2.ベッド
    • 3.夏の思影
    • 4.ゲーペーウー
    • 5.ラブ?
    • 6.チュウイングガム
『PARADAISE・K』('87)/割礼

OKMusic編集部

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