【独断による偏愛名作Vol.3】
『麝〜ジャコウ〜香』は、
ビジュアル系百花繚乱の時代を彩った
Laputaの最高傑作

ハードかつ妖艶なギターアプローチ

Laputaは、黒夢のローディーを務めていたこともあるaki(Vo)がTomoi(Dr)らと1993年に結成。翌年にJunji(Ba)と、元Silver-RoseのKouichi(Gu)が加入し、以後、何度かのメンバーチェンジがあったものの、それまでギターを担当していたJunjiがベースへとコンバートすることで、メジャーデビュー時のメンバーとなった。Silver-Roseというバンド名に馴染みのない人も多いだろうが、当時のインディーズを知る人にとっては懐かしくも忘れられぬ名前だろう。1990年代半ば、名古屋のインディーズシーンを盛り上げた存在で、黒夢と並んで“名古屋2大巨頭”と目されていたのがSilver-Rosである。それら2バンドとの関係を考えると、Laputaは名古屋ビジュアル系の直系と言ってよかろう。

1995年頃からインディーズで人気を獲得した彼らは、1996年にシングル「硝子の肖像」、アルバム『蜉〜かげろう〜蝣』でメジャーデビュー。百花繚乱の時代を彩り、時代の一役を担ったバンドのひとつとなった。そのアグレッシブでありつつもセンシティブなギターサウンドや、歌詞や出で立ちで表現されたダークの世界観は、一時期、他にはないものであったように思う。隙間が空いた…というとかなり語弊があるけれども、先達がスタジアム級バンドへと成長、あるいはストリート系へと変貌していく時、当時、結成時から培ってきたLaputaならではの要素は案外その界隈にはなくなっていたように思う。冒頭で“正しきビジュアル系”と言ったのはそこである。筆者の体感では、その1998年頃のLaputaがビジュアル系の代表であったように思う。

今回紹介する『麝〜ジャコウ〜香』は、インディーズから築き上げてきたLaputaのサウンド、世界観の集大成であったと考える。本作は彼らにとって初のチャートTOP10入りを果たし、売上枚数もバンド史上最高となっている作品でもあったようで、それを鑑みても、Laputaの最高傑作と言っていいかもしれない。サウンド面から言うと、何と言ってもギターサウンドがいい。時にハードに、時に妖艶に、縦横無人に繰り広げられる。M1「麝香」からしてひと筋縄ではいかない。全体的にはHR/HMの流れを組むインダストリアル系のナンバーでありつつも、メロディアスな間奏ではオリエンタルかつサイケな匂いも漂わせており、オープニングから本作、そしてバンドが持つ多彩な表現力を鼓舞しているかのようである。

続く、パンキッシュなM2「ケミカルリアクション」ではドライなカッティングを披露。M3「ロゼ」でもそのシャープなギターは引き継がれるが、そこに──あれはギターシンセだろうか、イントロなどではその対極にあるかのようなポップな音色も聴かせる(ギターではなく鍵盤かもしれない)。そうかと思えば、M3のBメロでは妖しい雰囲気のアルペジオを重ねているのだから、ホントいろいろやっている。

先行シングルだったキャッチーなM4「揺れながら…」、ダークかつヘヴィなM5「裂かれて二枚」と、ここまででも十分過ぎるほどにバラエティに富んでいるが、一転、M6「カナリヤ」でクリアトーンを聴かせるところが何とも心憎い。特にアウトロがなかなかいい。昨今ブームとなっているシティポップ的…とは完全に言い過ぎだろうが、HR/HM由来だけでないアプローチは今も新鮮だし、Kouichiのセンスの良さ、ひいてはLaputaというバンドの志しの高さも感じるところである。

M7「ミートアゲイン」もシングル曲。Aメロは妖艶で、Bメロはパンキッシュ、サビではビート感は残しつつ、メロディアスに展開と、1曲の中にバンドの持つ要素を盛り込んでいて、意欲的な楽曲だったことがうかがえる。その甲斐あってか(?)、同曲は彼らのシングルでは最高売上となったようだ。主旋律も凛としていて、普通にいい曲だと思う。

M8「白昼夢」はアルペジオから始まり、ギターが開放的でメロディアスになっていくところからもそうだし、キャッチーでありながらサウンドはダイナミックに展開するサビも、個人的にはまさに“正しきビジュアル系”の印象が強い。今となっても充分シングルでイケたのではないかと思うくらいだが、それはこのバンドのアベレージの高さを物語っているのだろう。

ダンサブルなM9「ナイフ」、パンキッシュなM10「クラッシュボウイ」と続き、M10のアウトロでM1のイントロで聴こえてきたガムラン風の音が再び聴こえてくる。円環構造を持ったアルバムであることが示されるのだが、後半ではM9が相当に興味深い。イントロから打ち込みが聴こえてきて、どこかヒップホップ的というか、ミクスチャーな色合いを見せているのもさることながら、スパニッシュなアコギを重ねたり、間奏ではTomoiがラテンっぽいドラミングを見せたりしている。Bメロでのギターのアンサンブルと併せて、彼らの他の楽曲にはないアプローチだと思う。しかも、要所要所で従来のギターサウンドやキャッチーなメロディーも堅持しているところも面白い。[後期のサウンドは「デジタル・ビートの大胆な導入がバンド自体の変容と並行している」と評価されているように、エレクトロニック・ダンス・ミュージックに影響されたデジロックのような音楽性へと変わった。初期から中期にかけてはKouichiがメインの作曲を手がけていたが、後期からはJunjiの作曲が増えている]というのがWikipediaのLaputaに対する見立てだが、M9はその端境期の楽曲なのかもしれない([]はWikipediaからの引用)。バンドが新たなアプローチを求めていた証左と捉えることもできる。ちなみに、M9はJunjiの作曲である。

OKMusic編集部

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