【ライヴアルバム傑作選 Vol.3】
『東京スカパラダイス
オーケストラ ライブ』は
スカパラらしい姿勢を感じさせる
ライブカバー集
柔軟かつ真摯に音楽へ向き合う姿勢
ビッグバンドジャズ風のスウィングを聴かせるM5「36-22-36 (THIRTY SIX TWENTY TWO THIRTY SIX)」も原曲へのオマージュを感じさせるカバー。ミドルテンポで、ピアノなど渋い演奏を見せる箇所も多く、メジャーデビュー間もない頃から、ホーンセクションがイケイケで迫る楽曲だけじゃなく、こういう落ち着いたナンバーもやれていたというのはスカパラの大きなアドバンテージだったように思う。聴きどころは間奏ではなかろうか。オリジナルを歌うBobby "Blue" Blandは独特の歌声で、何でも[痰を吐くような唱法は、彼のトレードマーク]だったとか([]はWikipediaからの引用)。このスカパラ版でも、ホーンズに先駆けて、かなりワイルドでフリーキーにシャウトしている。楽曲全体は比較的しっとりとしているので、静と動と言おうか、そのコントラストが面白い。
M6「SUMMERTIME」は古今東西、とりわけBillie HolidayやらMiles DavisやらJanis Joplinやらレジェンド級のアーティストがカバーしている超有名なナンバー。何となくゆったりとした歌唱のイメージを持たれている方も多いような気がするが、スカパラのメンバーもそう思ったのかどうかは知らないけれど、“らしい”カバーというか、スカビートで仕上げている。結構ポップだし、ダンサブルだ。今聴いても“こういう「SUMMERTIME」もあるのか!?”と新鮮に思われる方もいらっしゃるのではなかろうか。「SUMMERTIME」の原曲はGeorge Gershwinが[1935年のオペラ『ポーギーとベス』のために作曲したアリア]であり、ジャズのスタンダードナンバーである「セントルイス・ブルース」に起源があるという説もある([]はWikipediaからの引用)。諸説あるようで、それが真実とは限らないが、そう思って聴き比べると、このスカパラ版はLouis Armstrong版「セントルイス・ブルース」に似てなくもないこともない…くらいの雰囲気ではある。あるいは…という気もするが、果たして?
ラストはM7「妖怪人間ベム」。昭和のアニメ…と言おうと思ったら、平成に実写ドラマ化、映画化もされている。その実写版でもテーマソングをカバーしていたようで、インパクトの強い楽曲であることは間違いなかろう。ハニー・ナイツが歌った元歌はブラスセクションもリズム隊も冴えていて今聴いても実にカッコ良い代物だが、スカパラは比較的忠実に再現しているように思う。《おれたちゃ 妖怪人間なのさ》のあとで軽快に鳴るブラスであったり、滑らかに流れるジャジーな旋律であったりと、原曲の印象的な部分はもちろん、ド頭のドラム♪ドン、パッ〜から始まる辺りもちゃんとなぞっている。原曲はフルートでそこはさすがに再現できなかった模様だが(ホーンズで鳴らしている)、寄せた雰囲気は十二分に伝わってくる。アウトロもそう。原曲の雰囲気を壊すことなくスカパラ流アレンジが成されている。このテイクはデビュー記念のコンベンションライブで披露されたものだという。昭和のアニソンのカバーというと、その昔なら色物な見方もされたところだが、彼らが真剣に「妖怪人間ベム」に向き合ったことは、デビュー記念ライブで披露したことでも分かるし、何よりもこの音を聴けば適当にやっていないことはよく分かるだろう。スカパラはタイアップが多いと前述したけれども、それはM7のように、昭和のアニソンであっても、ある意味で柔軟に、そして真摯に楽曲と向き合えることをメジャーデビュー時に示した事実と無縁ではあるまい。こういうことができたからこそ、今もあらゆる人たちにスカパラは愛されているのだと思う。
TEXT:帆苅智之