THE King ALL STARSの
1stアルバム『ROCK FEST.』は
加山雄三が最高の
ロックアーティストであることの証明
加山雄三という大樹
M6「ブラック・サンド・ビーチ〜エレキだんじり〜」もそう。このM6は、ラップが乗っているという点で言えば、人によってはパッと聴き最も原曲との隔たりを感じさせるものかもしれないが、そのトラックは恐ろしいほどに原曲の雰囲気を損ねていない。というよりも、ほぼ壊していないと言ったほうがいいだろうか。誰が聴いても「ブラック・サンド・ビーチ」であるし、不必要に原曲の旋律、音色、テンポを弄ってない──その辺でかなり意識的にトラックメイクしたような印象が強い。なので、古くからの加山雄三ファンも違和感は少なかろう。
印象が異なると言えば、サイケデリックロックの色合いの濃いM7「Cool Cool Night」に加山雄三のイメージを感じないリスナーがいるかもしれない。とりわけ、途中で転調して入るキーボードや、氏のヴォーカルのシャウトは、明るくポップな“若大将”っぽくなく、「Cool Cool Night」を未聴だった筆者は初めて聴いた時に“おや?”とは思った。で、原曲を聴いてびっくり。『加山雄三のすべて 第三集』収録の原曲もほぼ同じアレンジなのだ。冒頭のリバースは付け足されていたし、ベースの音は分厚くなっているなど、THE King ALL STARSなりのリアレンジはあるものの、ベーシックは大きく変わっていない。原曲のフォルムをシャープにした感じだ。このM7が最たるものだろう。1960年代からの加山雄三の楽曲はもともと骨子が太く、さまざまな要素を受け止めるだけの力を持っていた…そういうことなのだろう。
無論、エレキギターを中心にキャッチーでポップなメロディーを有していたということがその最大の要因だが、もうひとつ、氏の声の良さもそこにはあると思う。インストを除いた収録曲から聴こえてくる氏の歌声には落ち着きがある。単に低いとか太いとかではなく、“兄貴感”とでも言おうか、独特の安心感がある声だと思う。氏の歌を聴くと“It’s all right”という気になってくる。そんな安心感だ。それによって“どんな楽曲での加山雄三が歌えばそれは加山雄三のものになる”ところはあるし、逆に言えば“加山雄三の楽曲は加山雄三以外が歌ってもなかなかさまにならない”とも言える。その意味で、『ROCK FEST.』は実にうまくアレンジがなされ、構成が行なわれているのだと思う。加山雄三の音楽は1960年代からある意味で完成されており、不変であることを証明したのだ。メンバーの氏への敬愛が成せる業であったのだろう。
話はここで終わらない。今回紹介した『ROCK FEST.』は、いわゆるインディーズでのリリースであり、この翌年に発表されたミニアルバム『I Simple Say』がメジャーデビュー作である。この『I Simple Say』がまたすごい。『ROCK FEST.』はここまで説明したように、加山雄三という不世出のロックアーティスト、その大樹に寄り添うように作られたアルバムという見方ができる。もちろん、生半可な技量と覚悟ではその大樹に寄り添うことができないことは言うまでもなく、THE King ALL STARSだからこそ、『ROCK FEST.』をかたちにすることができたと言える。次作『I Simple Say』のすごさは、バンドがそこからさらにもう一段階進んだことにある。少し語弊があるが、『I Simple Say』でTHE King ALL STARSは真のバンドになったという言い方ができるかもしれない。加山雄三がいるバンドではなく、加山雄三もいるバンド。そんな感じだろうか。メンバー全員が等価。収録曲はそういう楽曲だし、そういう音に仕上がっている。本稿で少しでもTHE King ALL STARSに興味を持たれた方がいたら、『ROCK FEST.』はもちろんのこと、是非『I Simple Say』も聴くことをお勧めしたい。バンドが生き物であることがよく分かる。しかも、この時、加山雄三、78歳。その御齢で他のメンバーとフラットにバンドをやれたというのが何よりも素晴らしい。まさにロックである。その事実もまた、加山雄三が邦楽史に名を残す偉大なるロックミュージックの証左である。
TEXT:帆苅智之