中原めいこの
シンガーソングライターとしての
優秀さを示す『ロートスの果実』は
1980年代邦楽シーンを象徴する一枚

1980年代らしさにも好感

M6「君たちキウイ~」からはアナログ盤でのB面。ここからは、M7「こんな気分じゃ帰れない」はシングル「エモーション」のB面(今で言うところのカップリング)で、M8「スコーピオン」は本アルバム前にリリースされたシングルタイトル曲と、図らずも…であろうけど、シングル関連ナンバーが続く。M6は冒頭でたっぷり解説したので割愛。M7はイントロからアイドルポップス的な可愛らしい雰囲気で、シンセが多用されているところからすると、テクノ歌謡と言ってもいいのかもしれない。サビや間奏でとりわけ強調されるピコピコ感もさることながら、ドラムの音がいかにも1980年代(リズムは打ち込みっぽいが、実際にはどうなのだろう?)。また、《頭に来ちゃう 頭に来ちゃう》や《ケリをつけなくちゃ/ケリをつけなくちゃ/こんな気分じゃ帰れない》の歌詞の乗せ方も巧みで、この辺にもソングライティングの優秀さを感じざるを得ない。

1980年代っぽいと言えば、M8「スコーピオン」も同様。ドラムレスなサビ頭から始まって、ズシリとしたビートにつながっていく様子は、懐かしい人にはとことん懐かしい空気感なのではなかろうか。メロディーやサウンドが似ているというのではなく、個人的にはKenny Logginsの「Danger Zone」やSurvivorの「Eye of the Tiger」を彷彿させる空気感だと思う。映画『トップガン マーヴェリック』『ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV』が、前作から30数年経っても盛り上がっている2022年。『ロートスの果実』もリマスタリング+未発表曲辺りで再発したら結構イケると思うのだが──勢いだけで推すのも無責任の極みだけど、ユニバーサルミュージックさん、いかがでしょうか? 2024年が発売40周年ですので、再来年がいい頃合いだと思いますが…。

M9「気まぐれBad Boy」はミドル寄りのテンポ。ボサノヴァタッチというか、ハワイアンというか、これも海っぽい雰囲気ではある。同じようなテーマでもホント多彩にサウンド&メロディメイクをして、世界観を作り上げるアーティストである。さわやかさを醸し出している伸びやかなストリングスもいいし、サビのコーラスの煌めく感じも素敵だ。

アルバムラストのM10「Cloudyな午後」も比較的落ち着いたテンポ。ややマイナーで大人っぽいメロディは流石にキャッチーだが、硬質なサウンドと相俟って、他の収録曲とは若干趣を異にした雰囲気ではある。それは歌詞も同じで、ここまでガーリーな内容の多い本作ではあるが、ここに来て、彼女の作風がそればかりではないことを示しているかのようだ。その意味で、ここに「Cloudyな午後」を置くのはベターではあるように思う。

《ah,恋人はテレパシー 何も言わずにわかる/アナタの瞳のぞけば……/I know you You know me/ふりむいた時 いつもそばにいるわ……》《Just a kiss little kiss/Bird kiss交わし/もう アナタを失くせない》(M10「Cloudyな午後」)。

独断でザっと全曲解説してみても、全ての収録曲の作詞作曲を手掛けた中原めいこのポテンシャルがよく分かるし、優れたアーティストであったことは明白だろう。アルバム『ロートスの果実』以降、「ロ・ロ・ロ・ロシアン・ルーレット」(1985年)や「鏡の中のアクトレス」(1988年)といったシングルもそれなりにヒットしたと記憶しているが、その後、[1992年の日清パワーステーションでのライブを最後に歌手活動を休止]。また、[2000年代前半まで(中略)楽曲提供を行なっていたものの、その後は目立った活動はなく、公の場所にも一切姿を現していない]という([]はWikipediaからの引用)。アーティストとしての復活は難しいのかもしれないが、日本の音楽シーンにおける、中原めいこという天才シンガーソングライターの功績は決して損なわれるものではない。

TEXT:帆苅智之

アルバム『ロートスの果実』1984年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.魔法のカーペット
    • 2.ロートスの果実-夢楽樹
    • 3.エモーション
    • 4. I Miss My Valentine
    • 5.メランコリー Tea Time
    • 6.君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。
    • 7.こんな気分じゃ帰れない
    • 8.スコーピオン
    • 9.気まぐれBad Boy
    • 10. Cloudyな午後
『ロートスの果実』('84)/中原めいこ

OKMusic編集部

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