T-BOLANが
大ヒット量産した秘訣を
彼らの代表作『SO BAD』から
模索する

巧みに作られたキャッチーなサビ

T-BOLANについてそんなことを考えつつ、もう一度、改めて『SO BAD』を聴き直してみると、何となくこのバンドの特徴が分かった気がする。それは、オープニングのM1「じれったい愛」からはっきりと出ていると思うので、結論から先に言ってしまうと、楽曲構造がシンプルである…というのが、(この時期の)T-BOLANの秘訣ではないかと思う。いい意味で無駄がないというか、余計なものがないように感じられる。キャッチーなメロディー、その良さをほぼそのままに伝えようとしていると見ていいのではないかとすら思う。M1のサビは以下のパートだ。ここだけで見ても、その意図が分かるようである。

《じれったい オマエの愛が/うざったい程 痛いよ/めいっぱい 抱きしめたい/本気の好き 胸にひびくよ》(M1「じれったい愛」)。

《じれったい》《うざったい》《めいっぱい》はほぼ同じ旋律であって、それに続く箇所のメロディーを変えることで、サビパートが出来上がっている。リフレインに近い…というか、ほとんどリフレインと言っていい。とにかく、この楽曲ではここの旋律の抑揚を強く押し出しているわけだ。いわゆるサビ頭でもあるので、それは明白だ。しかも、そのサビをことさらキャッチーに聴かせるような仕掛けもしっかりと施されている。まず《じれったい》《うざったい》《めいっぱい》という言葉選びの巧みさである。見事な韻…というほどではないけれど、この平仮名5文字(4.5文字)をきっちりと音符に乗せているのは、このサビをキャッチーに聴かせるにかなり効果的なものであることは言うまでもなかろう。おそらく全部《じれったい》だったとすると、くどくなる。歌詞を微妙に変えていくことで、同じようなメロディーにも、独特のリズムを持たせているのが実に巧いと思う。しかも、このサビは当該楽曲で5回やってくるという念の入れようだし、それもさることながら(?)、その5回中4回は歌詞が変わらないし、ラストのサビにしても《うざったい程 痛いよ》が《うざったい程 Pure my Heart》に変わっているだけなので、実体はほぼ変化がないと言える。《じれったい》《うざったい》《めいっぱい》は“No変化”なのだ。徹底している。

まだ、ある。このサビは5回出てくると言ったが、サビ以外の箇所は2回しか出てこない上に(そこはよくある構造)、そこがAメロとBメロとに、くっきりと分かれているような感じでもないのだ。やや乱暴に言えば、J-POP、J-ROCKというよりも、そのメロディー展開は洋楽に近いのだろう。Bでいったん転調してサビに移るというのではなく、サビとそれ以外が繰り返されるのである。ここも、サビを印象付けることに大いに役立っていると思われる。

あと、これはT-BOLANだけでなく、件のビーイング系アーティストの特徴であって、それをご存知の方も多いと思うが、その極めて印象的なサビの歌詞に出てくる言葉がそのまま楽曲タイトルとなっている。聴く人の記憶に定着しやすくなるのは、これまた言うまでもない。1、2度聴いていれば、そのタイトルを見聞きして、そこに♪じれったい〜とメロディーを乗せるのは容易となるだろう。

無論、全収録曲にそれが当てはまるわけではない。M3「瑠璃色のため息」は1サビと2サビとで歌詞が異なるし、M10「サヨナラから始めよう」ははっきりBメロがあって、後半ではサビ→B→サビと展開する。サビ頭の楽曲ばかりでもない。ただ、サビのメロディがキャッチーであり、そこでの歌詞が楽曲タイトルというのは一貫しているし、リフレインは多い。M4「My life is My way」やM8「BOY」がそうだろう。歌詞のモチーフも当たり前のようにそれぞれに異なるので、メロディーもテンポもサウンドも違ってくるのは当然として、とにかくサビを印象付けようとする意図は全体を貫かれている。『SO BAD』を聴いて、どの曲も何だか聴き覚えがあるように感じたのはおそらくそのせいだし、その徹底した品質管理にはむしろ頭が下がる想いだ。当時はこうしたスタンスを否定的に見る向きもあったように記憶しているが(ブームというのは、すべからくそうした“やっかみ”みたいなものに晒されるのが常)、冷静になって考えれば、こうしたことができるというのは、T-BOLANというバンドのポテンシャルの高さ、とりわけメインコンポーザーである森友嵐士(Vo)の作曲能力、そのポピュラリティーの高さを認めざるを得ないであろう。

ちなみに、T-BOLANはこの『SO BAD』を発売した年、これに先駆けて同年4月に2ndアルバム『BABY BLUE』をリリースしているし、シングルも前述の2曲を含めて4作品を発表している。シングルはアルバムにも収められているし、全てが森友を始めとするT-BOLANのメンバーが書いた楽曲ではないとはいえ、この量産体制は一目どころか、二目も三目も置くべきことだ。もはや職業作家レベル、職人の域だったと言える。

OKMusic編集部

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