T-BOLANが
大ヒット量産した秘訣を
彼らの代表作『SO BAD』から
模索する

ロックならではのスタンスも露呈

それでいて、職業作家に堕することなく(と言うと、職業作家に失礼だが、別に職業作家を下に見ているとかそういうことではなく)、アーティスト性というか、T-BOLANらしさ、森友嵐士らしさをはっきり楽曲に注入していることを無視してはならないだろう。まず、サウンド。M4「My life is My way」やM5「ためらいの真実」、M7「壊れかけのHistory」辺りはギターリフが引っ張る正調J-ROCKとでも言うべきナンバーで、これらをT-BOLANらしいサウンドと見る向きもあろうし、それはそれで否定しない。

だが、本作でのT-BOLANはそれだけに留まらない。M2「ガラスの刹那さ」のイントロはHR/プログレ方向。M3「瑠璃色のため息」は80年代風というか、ちょっとAORっぽい。アーバンな雰囲気を見せる。M6「あこがれていた大人になりたくて」ではアコギのアンサンブルを取り入れたサザンロック風味を導入。大黒摩季がコーラス参加しているバラードナンバーのM8「BOY」は鍵盤中心のサウンドで、若干ゴスペルを感じさせる。そして、タイトルチューンのM9「SO BAD」では、Guns N' RosesばりのアメリカンHRを聴かせる。

といった具合に、バラエティー豊かなロックを自身のサウンドに取り込んでいる。オーケストラヒットが多用されているのが気にならないかと言えば嘘になるけれども、伝統的なロックをアップデイトするためのエッセンスとして、T-BOLANとスタッフはこれが必要だと判断したのだろう。あるいはリスナーへインパクトを与えるために不可欠と考えたのかもしれない。こうして形となって遺っている以上、もはや何とも突っ込んでみようもないけれども、今となっては1990年代J-ROCKの史料という位置付けで捉えるのがいいのではないかと個人的には思う。

歌詞に関しては、まったくと言っていいほど、そのアーティスト性を隠していないと思われる。アーティスト性というよりも、森友嵐士の人間性と言ったほうがいいだろうか。シングル曲を始め、M2「ガラスの刹那さ」やM3「瑠璃色のため息」で示す心情を吐露したラブソングも独自のカラーが出ていて味わい深いが、ここはロックらしい反骨心を露呈したものに注目した。

《Wow Wow Wow Wow/誰でもなく俺が俺で在れる そのために/Wow Wow Wow Wow/壊れる程今を感じ生きていたいだけ/そうさ My life is My way》(M4「My life is My way」)。

《純粋な感情が霧につつまれてく/怒りに 悲しみ 喜び/知恵に呑込まれて 臆病が騒ぎ出す/自分に問いかけてみた》《頼りない時代のものさし 怯えるより/心に感じる気持ちを 大事にしたい》(M6「あこがれていた大人になりたくて」)。

《気がつけば知らぬ間に 周りに染まってく様さ/信じてた 自分さえも殺されて》《壊れかけの History/すべてがそう 自分さ/いい訳じゃおさまらない/胸の悲鳴に So Shout》(M7「壊れかけのHistory」)。

本作発売時期のT-BOLANは楽曲を大量生産していたと言えば大量生産していたのだろう。それは前述の通りだ。しかし、楽曲を大量に生産していたと言っても、それは決して量販品ではなかった。その何よりの証左が上記の歌詞にあると思う。確かなヒューマニズムに裏付けされたロックバンドならではのスピリットがここにある。

TEXT:帆苅智之

アルバム『SO BAD』1992年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.じれったい愛
    • 2.ガラスの刹那さ
    • 3.瑠璃色のため息
    • 4.My life is My way
    • 5.ためらいの真実
    • 6.あこがれていた大人になりたくて
    • 7.壊れかけのHistory
    • 8.BOY
    • 9.SO BAD
    • 10.サヨナラから始めよう

OKMusic編集部

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