【独断による偏愛名作Vol.4】
『グラッチェ!』を聴いて
改めて心に刻む
志し高きバンド、長澤義塾!

良質なメロディーを贅沢に展開

前置きが長くなったが、これは筆者の熱量の余り故のこととご理解いただければ幸いである。ここからは長澤義塾の優れたところを述べたいと思う。まず何と言ってもメロディーがいい。歌の主旋律は親しみやすく、印象的なものばかりである。あえてジャンル分けをするならば、J-POP要素強めのR&Bといった感じだろうか。どのフレーズにも滑らかな抑揚がしっかりとあり、加えていわゆるA、B、サビという展開もちゃんと持っている。『グラッチェ!』収録曲は全てそうで、曲間のブリッジやインタールードの役目となるような捨て曲はない。

それでいて、さまざまなタイプのメロディーがある。アップチューンでは、M1「さるのしっぽ」はポップで、M4「BLACK JACK 21」はシャープ、M9「消えた参謀」は疾走感がある。テンポが緩めな楽曲で言えば、M5「リーチ」は柔らかく、M7「Garden of Flower Child」はメロウ、M8「ライバル」はアーバンな雰囲気、そしてM10「2 OUT満塁」はどこかノスタルジックと、それぞれに個性的だ。もっとも、筆者はすでに歌詞やサウンドを含めて耳にしているからそんなイメージを持ったのだろうが、仮に歌詞やサウンドがなかったとして、どれもこれも、初めて聴いた人も毛嫌いすることなく聴ける旋律ではあると思う。10曲あるので、どんな人でも間違いなく、ひとつやふたつはお気に入りのメロディーが見つかるだろう。

このメロディーの良さは、楽曲にはR&Bやソウルの要素がありつつも、長沢の歌唱がフェイクなどに逃げていないところにも要因があるのではないか。今回、改めて本作を聴いてそんなことを感じた。2000年以降すっかりシーンに定着したコンテポラリR&Bでは、フェイクを多用した歌唱で歌にエモーションを込めることが多々ある。プレーンに歌うよりは迫力が増すし、多くの場合それはそれで問題ない。だが、中には大したメロディーでもないのに、必要以上にフェイクを駆使したり、必要以上にハイトーンを繰り出したり、曲芸と見紛うような楽曲もたまに見受けられ、興醒め、閉口することがたまにある。長沢の歌唱にもフェイクもアドリブもあるにはあるが、それらは必要最低限に抑えられている。歌をないがしろにしていないというか、歌の主旋律の音符を丁寧に追っている印象が強い。今回、『グラッチェ!』を聴き直して、改めてそこに好感を持った。要するに、ちゃんと歌っているのだ。だから、ほとんどの歌詞がはっきりと聴き取れる。そこもいい。メロディーをないがしろにしないことが、言葉も軽んじていないことにもつながっているようにも思う。

メロディー展開──いわゆるA、B、サビの件についても触れておこう。ポップであったりキャッチーであったりする主旋律が、実にいいバランスで配置されていることもまた長澤義塾楽曲の特徴である。先にJ-POP要素強めと言ったのはそこにある。“メリハリがある”と言ってもいいかもしれない。フレーズ単位でもいいメロディーが、表情を変えながら、いい案配で連なっていく。この“いい案配”がポイントで、激しく転調するような突飛さではなく、予想が付く範囲でもなく、とてもいい具合にメロディーが続いていくのである。筆者は、コード進行など楽曲制作における専門的なことはよく分からないので、そこにどんな秘訣があるのかは正直言ってよく分からないのだが(申し訳ない)、その展開の妙味も長澤義塾楽曲の気持ち良さに大きく関与しているのは間違いない。個人的にはM3「太陽にホエールズ」とM5「リーチ」が特に良かった。ともに注目したのはBメロ。“サビ前にまだこんなメロディーが出て来るのか!?”と、驚きに近い感想を持った。もちろん、そこからつながるサビもちゃんとしているので、何とも贅沢な気分にさせてくれる。この稚拙な表現で読者にどこまで伝わっているか、我ながら甚だ疑問だが、実際に耳にしてもらえれば、共感してくれる方もいらっしゃると思う。

OKMusic編集部

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