RCサクセションのラストアルバム
『Baby a Go Go』の豊潤と“らしさ”

丁寧に構築されたアンサンブル

長々と言い訳をしてしまって申し訳ない。そんなわけで、結果的に一時は隅に追いやってしまった『Baby a Go Go』であるが、今、聴いてみると、しみじみといい作品であることを実感するアルバムである。やはり派手さはない。「雨あがりの夜空に」のRCを期待すると、きっと拍子抜けする。“ドカドカうるさいロックンロールバンド”はここにはいないと言っていい。ブルーデイ・ホーンズも参加してないし、ブレイク期のメンバーであるGee2wo(Key)も新井田耕造(Dr)も脱退している(新井田は本作制作中の脱退で、2曲のみ参加している)。元カルメン・マキ&OZの春日博文がドラマーとして加わっているものの、客演はmoonridersの武川雅寛(Vn)のみで、基本的には忌野清志郎(Vo&Gu)、小林和生(Ba)、仲井戸麗市(Gu&Vo)とドラマーでアンサンブルを構築している。必然、シンプルなサウンドにならざるを得なかったとも言える。いや、当時のRCなら、いくらでのミュージシャンを集めることができたはずで、清志郎たちは敢えてそうしなかったというのがおそらく正解だろう。

派手さはないとは言ったが、だからといって地味ではない。豊潤と言ったらいいか。少ない音数ながら丁寧なサウンドメイキングが施されている。驚くほどThe Searchersの「Needles And Pins」(1964年)に似たギターリフを聴かせるM1「I LIKE YOU」は、つまりマージービート。かつて清志郎が“リバプールからキャッチしたナンバー”へのストレートなオマージュだろう。1960年代らしく奥行きを感じさせるドラム。シンプルなベースライン。BメロでのCHABOらしいエレキギター。それぞれがくっきりと音像を残しつつ、折り重なっているのが分かるところが素晴らしい。

M2「ヒロイン」も同様。どちらかと言えば米国寄りな印象もありつつ、M1とは異なるリバプール風味も残したナンバーで、やはりアコギ、エレキ、リズム隊のそれぞれの独立した演奏でアンサンブルを構築している。

M3「あふれる熱い涙」はブルージーなミッドチューンで、M4「June Bride」はリズミカルなポップチューンとタイプは異なるが、いわゆるカントリーミュージックからの派生ということで良かろう。こちらは“ベイエリア”へのオマージュだろうか。RC屈指のミドルバラードと言っていいM3はメロディー、歌詞もさることながら、強固なバンドサウンドによって名曲として成立していると確信するほど。ドラムを叩いているのは新井田でとりわけ力強い印象がある。

M4では間奏でのアコギによる「ウエディングマーチ」もいいし、清志郎の鳴らすウクレレもいい。いい意味で肩の力が抜けているように思えて、リラックスして聴ける。

M5「うぐいす」はCHABO楽曲で歌っているのももちろんCHABO。RCでのCHABO楽曲というと、「チャンスは今夜」「ブルドッグ」、あるいは「打破」など(※註:「打破」はソロ作品『THE仲井戸麗市BOOK』収録だが、『the TEARS OF a CLOWN』にも収録)、激しめの楽曲が多い印象だが、M5はアップテンポでありつつ、上記の楽曲に比べるとエレキギターのエッジーさが薄くなっているところもまた、『Baby a Go Go』の特徴と言えるかもしれない。武川雅寛のバイオリンがいいニュアンスを与えている他、サビでCHABOの声に清志郎のコーラスが重なるのは完全にRCらしさを感じさせる。

一転、M6「Rock'n Roll Showはもう終わりだ」は8ビートのロックンロール。BPMは本作中最速で、1950年代テイストはそれこそ「チャンスは今夜」を彷彿させる。エレキギターも重い。完全にバンドサウンドではある。ただ、音圧がそこまで強くないというか、“ドカドカうるさい”感じはそんなにない。その理由は歌詞から推測できるが、その辺はあとで述べる。

M7「冬の寒い夜」は[忌野が中学時代に作曲した曲]ということだが([]はWikipediaからの引用)、妙なコードが耳に残るし(この辺は作曲した時点からそうだったのだろうか?)、サイケデリックなサウンドメイキングも耳を惹く。RCの多彩ぶり(多才ぶり?)を示した楽曲ということもできるだろうか。M1の2番のコーラスワークにもサイケな感じであるが、その辺はCHABOが指向したという説も聞いた。仮にそうだとしたら、それはそれでとてもバンドらしいことではあったと思う。

M8「空がまた暗くなる」はRCらしいポップなロックンロール。癖も強くないので、清志郎の没後にドラマの主題歌になったというのも十分にうなずける話。これも歌詞に注目だが、それもあとでM6とまとめて──。

M9「Hungry」は本作で最もバンドサウンドが厚めな楽曲と言っても良かろう。リズムはニューオーリンズビート、セカンドライン──というよりも、Bo Diddley由来のジャングルビートだろうか。リズム隊はもちろんのこと、エレキも派手だし、サウンド全体が前に出ているような印象はある。これもまたRCの1950年代へのリスペクトだろう。中盤の歌とエレキギターのユニゾン(?)もバンドっぽくてとてもいい。

そんな派手なM9に続くM10「忠実な犬」は、再びアコースティック基調の落ち着いたサウンドとなる。ドラムもオルガンも入っているけれど、ミドルテンポということも影響してか、圧は強くない。

M11「楽(LARK)」は明るくポップ…と言いたいところだが、歌詞からすると“お気楽な”といったほうがいいかもしれない。バンドサウンドだが、音色、音圧はM10に近い。これもまた肩の力が抜けた印象ではあって、いい意味でスリリングさがないままに、アルバムはフィナーレとなる。

途中、M6やM9などの激しめなナンバーや、M7のような一筋縄ではない楽曲もあるものの、リラックスできるナンバーが前半と後半にあるので、全体的に『Baby a Go Go』は、聴き手に緊張感を強いるようなアルバムではないと言えるだろう。

OKMusic編集部

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