小野正利の“美声”の原点と言える
『VOICE of HEART』は、
とても丁寧に作られたことが分かる
大人の鑑賞に堪え得る作品

“声”を活かすための
メロディーとアレンジ

何しろデビューアルバムの題名が『VOICE of HEART』である。本作は“VOICE=声”の楽曲集であると断定しているようでもある。この他にもタイトル候補はあったであろうが、おそらく“VOICE”というワードを使うことに関しては、本人やスタッフサイドは躊躇しなかったのではなかろうか。何も確証はないけれど、そう思わずにはいられない。オープニングM1がデビュー曲「ピュアになれ」というのもなかなか興味深い。この時期は“シングル曲はアルバム2曲目”という暗黙の了解みたいなものがまだなかったこともあろうが、それにしてもデビュー曲が1曲目というのはロック、ポップス系アーティストではあまり類を見ないように思う(アイドルはあるような気がする)。ただ、それも曲を聴けば納得ではある。

M1はサビ頭で自身がハーモニーを重ねたアカペラから始まる。いきなりハイトーンで、旋律がどんどん上っていく。それでいてメロディーはさわやかだ。小野正利のシンガーの特徴を冒頭から端的かつ的確に表現しているナンバーと言えよう。「ピュアになれ」というタイトルも、まさに彼の歌声の癖のなさを表しているようにも思える(その辺を作詞家の松本一起がどう考えていたのかは今となっては分からないけれど、筆者の願望込みでそういう捉え方もできるということにしておいてもらえればありがたい)。小野正利のブレイクポイントは3rdシングルのM5「You're the Only…」であり、本作『VOICE of HEART』も「You're the Only…」の1カ月後に発表されたもの。この辺から察するに、3rdシングルで初めて小野正利を知った人に改めてデビュー曲の良さ、彼のヴォーカリストとしての“ピュア”さを分かってほしかったのかもしれない。そんなことも思う。

続くM2は「声・ロマン」。これもまたタイトルからして“声を聴け”と言われているようでもある。ちょっとHRテイストで、ビートもアッパーでありながら、全体にはアーバンな仕上がり。もちろんヴォーカルはハイトーンだが、メロディーがややマイナーな分、スリリングさもあって、シングル曲とは違った雰囲気を示している。

M3「My Venus」は「You're the Only…」のカップリング曲だったので、シングルを聴いていたリスナーには耳馴染みがあったかもしれない。メジャー感があって、サウンドはポップス寄りではあるものの、途中から重めのエレキギターが聴こえてきて、間奏ではツインギターが絡み合う…といった具合に、ロックバンド色がやや強めになっていく。小野正利自身の作詞作曲のナンバーということで、自らの音楽のルーツであるハードロックを意識していたのかもしれない。そのテイストはM4「朝は窓にこぼれて」も同様だ。こちらは「ピュアになれ」のカップリング曲。小野が手掛けた楽曲ではないものの、M3以上にガツンとしたサウンドを聴くことができる。ともにカップリングということで、表題作にはない遊び心や趣味性が発揮できたのではなかろうか。

そんなハードロック色のナンバーが続いたあとで登場するのがM5「You're the Only…」である。この楽曲を期待してアルバムを手にしたリスナーに“待ってました!”と言わせんばかりの曲順である。こういうところはホント上手いと思う。上手いと言えば、M5の楽曲自体そのものも上手い。歌の上手さは言うまでもないのでここでは触れないが、その歌声をよく聴かせるための工夫がメロディーとサウンドにある。イントロはピアノ。ストリングスが若干絡むものの、序盤はほぼピアノのみで進んでいく。バラードの王道といった感じで、Aメロまではピアノとヴォーカルで構成されている。Bメロからはベースとコーラスが入ってくるものの、まだサラッとした印象である。それが《想いを伝えたい》の終わり辺りからシンバルロールが聴こえてきて、《すぐに》でドンドンと本格的にドラムとエレキギターが鳴る。“はい、ここからが最大の聴きどころでございます!”とばかりにサビへとつながっていく。しかも、そのサビのメロディーが──すでに初出から30年も経った今となっては慣れてしまったところはあるけれども──こちらの想像以上に昇っていく。《いつまでも二人このまま》はそうでもないが、《強く抱きしめて/Fly away》でギュインって感じで上がるし、《僕のすべて映してよ》もそうだ。さらに巧みなのはそのあと、《My song for you,/Just only you/君だけを》で一旦落ち着いたかに見せかけて、《愛しているのさ》でズコーンと突き抜けていくところだ。その歌唱を聴くだけでも十分に気持ちが良いのだが、サウンドでの演出が実に丁寧。《My song for you~君だけを》の箇所ではベースとピアノだけとなり、バンドサウンドは一旦ブレイクしたような形になるものの、《君だけを》ではエレキギターを中心に白玉がジャーンと鳴らされる。“行きますよーっ!”と楽器がガイドしているような何とも外連味あふれるアレンジだ。ベタと言えばベタ。でも、そこがいいのだ。

OKMusic編集部

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