小野正利の“美声”の原点と言える
『VOICE of HEART』は、
とても丁寧に作られたことが分かる
大人の鑑賞に堪え得る作品

強力な布陣で大人の歌をバックアップ

M6「Shining Forever」は2ndシングル「虹〜ろくでなしBLUES〜」のカップリング曲。エレキギターに少しHR的な匂いを感じるものの、メロディーもさわやかだし、楽曲の展開は所謂ポップス的。誤解を恐れずに言えば、個人的にはオメガトライブ辺りの路線に近い印象がある。ちなみに2ndシングル表題曲はそのタイトル通り、マンガ原作のアニメ映画の主題歌であり、ロック色の強いナンバーであったが、本作には収録されていないのは、いずれものイメージがことさらに付着することを避けたからではなかろうか。

M6を聴くと、そんなことを邪推してしまう。M7「Love and Pain」も、ギターはエッジーではあるが、こちらもポップス寄りと言ってよかろう。Bメロの存在感はまさにJ-POPそのものだと思う。そうは言っても、ヴォーカルラインは終始、高音をキープしており、ポップな印象とは裏腹になかなか高度な歌ではないかとお見受けした。

続くM8「八月の夏」、M9「Believe Me」は、サウンドの違いはあれど、ともにバラードナンバー(M8のほうがビートが重い)。いずれもやはりハイトーンで歌い上げているところが聴きどころではあろう。ただ、アルバムもこの辺になってくると、その歌唱にも慣れてきたようなところがあって、すごい声量ではあるものの、ことさらにそこだけに耳がいかないような気がするのは筆者だけだろうか。そう言うと、否定的に受け取られるかもしれないが、そういうことでもない。歌のメロディーラインに彼の声質がマッチしているからではないかと想像する。簡単に言えば、いいメロディーだということ。そして、冒頭から述べているように、いい意味で癖のない歌声だからこそ、ヴォーカルがそのメロディーを変に邪魔していないのだと考える。

M10「See You Again」は如何にも1990年代…というよりも平成前期といった感じのバンドサウンドが清々しい。これもヴォーカルはかなり高音で迫るのだが、こちらもサビのキャッチーなメロディーが先だっている印象はある。カラオケにあるかどうか分からないけれど、“いいメロディーだなぁ”と思っていざ歌ってみるとその大変さが分かるナンバーなのではないかと思う。歌詞は小野自身が書いたものだが、その親しみやすいメロディーラインとは裏腹に、《「きっといつか 生まれ変わる」 そう言い残し/星になった君》や《もしも運命が徴笑んでくれたら/そうさ 君と僕 時を越えて》といったフレーズがあることから、単に分かりやすい楽曲ということでもなさそう。ポップソングの奥深さのようなものも感じられる。

アルバムのラストは小野正利の作詞作曲によるM11「Memory」である。サックス入りのアーバンな楽曲で、AORという括りになるのだろうか。少し大陸的な匂いのするメロディーも印象的だ(特にBメロ)。しっとりとした雰囲気のある音作りながらも、確実に存在感のあるサウンドでアルバムを締め括っている。本作には2ndシングルが収録されていない云々と前述したけれども、やはりアルバム全体を通して、大人な雰囲気を醸し出そうとしていたのだろう。M11からはそれが確実に分かるように思う。

小野正利の歌唱力と美声を支える作家陣とミュージシャンもさりげなく豪華だ。作曲のほとんどを美乃家セントラル・ステイションの佐藤健が手掛けており、アレンジは佐藤の他、武部聡志(M2)、井上鑑(M3、M11)、笹路正徳(M5)、是永巧一(M6)、土方隆行(M10)と今も名うての顔触れがズラリ。これらのメンバーも概ね演奏に参加している。さらには、歌詞カードに記載された名前もそうそうたるミュージシャンばかりだ。ザっと挙げてみる。松原正樹(Gu)、角田順(Gu)、笛吹利明(Gu)、今剛(Gu)、増崎孝司(Gu)、富倉安生(Ba)、岡沢茂(Ba)、浅田孟(Ba)、美久月千晴(Ba)、渡辺等(Ba)、島村英二(Dr)、山木秀夫(Dr)、片山敦夫(Key)、山木秀夫(Dr)、大谷和夫(Key)、山田秀俊(Key)、そして、土岐英史(Sax)。さすがに全ての方を紹介するわけにもいかないので、詳細は割愛させてもらうが、もし少しお時間があるなら、この名前のいくつかでググってもらいたい。いずれも邦楽シーンを築き上げたと言っても過言ではない一流ミュージシャンである。つまり、それだけのメンバーが奏でる音じゃないと、歌声とマッチアップできなかったということではなかろうか。こうしたところでも小野正利の凄さが裏付けできるのではないだろうか。

補足(というか、おそらく余談)。M5、M10のドラマーの名前に“Masashi Minato”とあるが、終ぞ同名のドラマーを見つけられなかった。間違っていたら申し訳ないのだが(先に謝っておく。すみません)、これは“Masafumi Minato”の誤植ではなかろうか。“Masafumi Minato”であれば、それは湊雅史、すなわち元DEAD ENDのドラマーであろう。何でも、某アーティストのツアーに参加した時も“湊マサシ!”と紹介され、同アーティストのアルバムに参加した時には“minato masashi”とクレジットされたそうだから、『VOICE of HEART』も同じような勘違いがあったのではないかと思うのだが、果たして──。

TEXT:帆苅智之

アルバム『VOICE of HEART』1992年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.ピュアになれ
    • 2.声・ロマン
    • 3.My Venus
    • 4.朝は窓にこぼれて
    • 5.You're the Only…
    • 6.Shining Forever
    • 7.Love and Pain
    • 8.八月の夏
    • 9.Believe Me
    • 10.See You Again
    • 11.Memory
『VOICE of HEART』('92)/小野正利

OKMusic編集部

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