『We're in the Mood』から振り返る
類稀なる音楽ユニット、
ICEの本質
歌詞に見る彼らならではの主義主張
M8「Dub In The Mood」から始まる後半(B面)も、ICEの特徴が貫かれていく。以下、ザっといく。ポップな中にもシリアスさを湛えたM9「LA-LA-LA(One Is Born Free)」。メロウでロマンチックな印象もあるM10「OVER THE RAINBOW」。ヒップホップ的な匂いを放つインストM11「Voice In The Mood」。J-POP的な歌メロでありつつもルーツミュージックの要素がしっかりと注入されたM12「SHINE」。ブルージーでロックなギターを中心としたスリリングなインスト、M13「’CAUSE WE KNOW YOUR DREAMS」。ソウルミュージックへの敬愛を如何なく感じさせるM14「SWEET INSPIRATION」。バラエティーに富んだ内容でありつつも、ICEとして筋の通った楽曲ばかりである。
歌詞に注目すると、これもなかなか興味深い。というか、バンドのメッセージ、主義主張をしっかりと構成していることが分かる。そこは最注目に値するところであろう。M4までは、まさに“気分”を醸成するかのような内容。M2ではズバリ言葉は不要と言い切っている点が象徴的だ。
《部屋の明かりを落として/テーブルに肘をついて/交わす言葉がなくても/I'm In The Mood》(M2「I’M IN THE MOOD」)。
M4からM8にかけては恋愛模様。しかも、そのすべてが抑えきれない衝動を描いていると言っていい。
《Baby 恋をするなら/Maybe 君じゃなければ/Baby キスをするなら/Baby! Baby!》(M7「BABY MAYBE」)。
M8以降は恋愛を通り越した歌詞が目立つ。しかも、どれも前向きだ。
《それぞれの生き方には同じだけの想いがある》《それぞれが過ぎた道はそれぞれの色に包まれる》(M9「LA-LA-LA(One Is Born Free)」)。
《SHINE, SHINE LIKE A BEAUTY SKY,/光溢れる明日に/FLY, FLY LIKE A BEAUTY CLOUD/次はきっと出逢うから》(M12「SHINE」)。
そしてM14。ここでは、ここまで描いてきた想い、衝動を歌に繋げている。世の中にラブソングがある理由を綴っているようでもあるし、ICEが音楽を創作する意味を重ねているようでもある。受け取り方はさまざまであろうが、フィナーレとしてはとても適切なように思える。
《もう止まらないこの胸のざわめきは/私の歌を導くため そっと》《もう終わらないこの胸の高鳴りは/私の歌を導くため ずっと》《MY LOVE:YOU'RE MY INSPIRATION/心に届く/LOVE IS LIKE A HEART BEAT》
《MY LOVE:YOU'RE MY INSPIRATION/あなたに歌う/LOVE IS LIKE A HEART BEAT》(M14「SWEET INSPIRATION」)。
そのギターサウンドやアッパーなリズム以上に、ICEにロックを感じるのはこうした歌詞だ。享楽的なダンスミュージックも、先人たちへのオマージュを捧げたかようなサウンドメイクも悪くはない。それはそれで十分に楽しいし、いいものも多いのだろうが、そこにはそのアーティストの持論があってほしいと思う。それはほとんど個人的な想いではあるが、そこで言えば、ICEにはロックバンドの心意気が十二分に感じられる。そして、そこが同時代のアーティストと最も一線を画す、ICEの特徴ではないかと思うし、だからこそ、あの時代において、彼らは誰にも似ていない存在ではなかったかと思うのだ。
TEXT:帆苅智之