鈴木雅之が抱いてきた
ブラックミュージックへの敬愛を
日本の大人の音楽へと昇華させた
『FAIR AFFAIR』

大人の鑑賞に堪え得る音楽

結論から端的に言えば、大人の音楽を世に広め、定着させたというのが鈴木雅之の邦楽史における功績ではないかと思う。もちろん、それ以前も大人が鑑賞に堪え得る音楽というのはあった。1980年代前半までは演歌のヒット曲も多かったし、いわゆるAORも流布されていった。当時はそうはっきりとは認識、形容されていなかったようにも思うが、最近シティポップと言われている音楽も世に浸透していった。しかしながら、はっきりとブラックミュージックにルーツを持つ大人の音楽をヒットさせ、しかもそれを現在まで続けていることは偉業と言える。いや、鈴木雅之にしても、AOR、シティポップ感は強く、少なくともアルバム『FAIR AFFAIR』頃までのシングル曲はそこまで黒人音楽要素は強くない。本作のオープニングで、現在までのところ、自身最大のシングルヒットナンバー、M1「もう涙はいらない(sentimental version)」もそう。R&B寄りのヴォーカリゼーションを見せる箇所もあるし、ブラスアレンジはソウルミュージックを感じさせるものの、そのアーバンな雰囲気はAOR的だ。頭サビで、キャッチーなメロディーを効果的に聴かせている上、冒頭も冒頭に楽曲タイトルがあるという仕掛けはいかにもポップミュージック的で、ほとんどJ-POP的と言ってもいいだろう。しかしながら、この楽曲を露払いに(?)、アルバムはどんどん本性を露わにしていく。

M2「冗談じゃないぜ」で迫るファンクチューン。ギターのカッティング、ベースラインのうねりはブラックミュージック由来の何物でもないし、ホーンセクションや女性コーラスの絡みは実にソウルフルだ。杏子とのデュエットが聴けるM3「最初のYaiYai」では、ジャジーなピアノが聴こえてくるものの、やはり秀逸なブラスアレンジがソウルっぽさを感じさせるところだ。M4「ためいき」はミドル…とまで行かないまでもM2、M3からの流れで聴くと落ち着いた印象を受けるナンバー。昨今のコンテポラリR&Bほどに派手に動くヴォーカリゼーションではないけれども、エモーショナルな歌であることは間違いない。間奏も含めてブルージーなギターがさり気なくいい雰囲気を出している。M5「君」はボサノヴァタッチなので完全にAOR寄りではあるが、それはそれでリズミカルなギターが生真面目な印象で都会っぽさを演出しているようにも思うし、聴き応えはある。M6「さよならいとしのBaby Blues」でさらにテンポが落ち着きくものの、ギターといい、ブラスといい、コーラスといい、サウンドもゴージャスに施されており、ブラックフィーリング全開。特に注目なのは鈴木の歌だろう。M4はそうでもないと評したが、テンポが緩いからか、こちらの歌唱はR&B的だ。アウトロ近くでは強めに歌い上げていて迫力がある。

一転、M7「No Control」は同期を取り込んだハウスっぽい仕上がりというのも面白い。全体的にはシャープな音像で、Herb Alpertを彷彿させるようなトランペットの音も入っているが、間奏で聴こえてくる英語の女性の声など、アーバンはアーバンだが、どこかバブルな香りが漂っているような印象も受ける。そこから、M8「十年はやいよ」では再びファンキーへ。ダンサブルなオフビートで、ホーンセクションがポップさを助長しながらも、ギターのカッティングのカッコ良さが光るナイスなナンバーである。親しみやすくもしっかりと渋くいという、鈴木雅之らしい楽曲と言えるのではなかろうか。M9「COME ON IN」は、ブルー・アイド・ソウルの世界的シンガー、Paul Youngとのデュエット曲。ソウル・R&B の伝説的デュオ、Sam & Daveのカバーなので、黒人音楽を白人とモンゴロイドとでオマージュしたものと言っていいだろう。サウンドも文句なしのカッコ良さだが、英語詞ではあったこともあってか、M1「もう涙はいらない」前にシングルリリースされたものの、セールス的にはそれほど評価されなかったのは少し残念な気もする。アルバムのフィナーレ、M10「せつなく I Love You」とM11「出会えてよかった」は、これもまた落ち着いたナンバー。ややレトロな感じの劇伴っぽいストリングスがジャジーなバンドサウンドと絡む、高級感のあるM10。鈴木雅之自身の作詞作曲で、他に比べるとメロディーも歌詞も素朴な印象ではあるが、それゆえにラストに置くことで味わい深さを残すM11。この2曲での締め括りはベストであろう。

OKMusic編集部

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