『Johnny Hell』は
浅井健一にしか醸し出せない
独特なロックの世界に
魅せられる傑作アルバム

浅井健一が演奏すればそれはロック

話がズレてきたので戻す。浅井健一という人の、周りをカッコ良く染めてしまう磁場は無論、その楽曲のサウンド、歌詞にも大きく影響していることは議論を待たない。そのカッコ良さが最大限に発揮される場が音楽であると言ってもいいだろう。その観点から『Johnny Hell』を探ってみよう。

まず、サウンド。BPMが速い曲であったり、エレキギターの歪みが大きかったりすると、それがロック的なものを感じさせるのは、ある程度、当然のことだとは思う。もちろんそれだけではロックになり切らないことも承知しているけれども、送り手にとっても受け手にとっても、速くて粗いサウンドが単純に分かりやすいスタイルのロックではあろう。しかしながら、その逆で、BPMが遅かったり、サウンドが粗くないものでロックを感じさせることは──素人考えではあるが──簡単にはできないのではないかと想像する。その点で本作収録曲には、如何にも…なサウンドにもかかわらず、完全にロックな雰囲気を感じさせるものがいくつかある。注目したのはM7「空港」、M8「ROMERO」、M10「哲学」辺り。M7は、テンポは緩く、リズムレスでギターのアルペジオから始まる。そこに歌が乗ってきたあと、ギターがストロークに変わるのだが、ことさらにディストーションを効かせているようではない。だけれども、全然ロックを感じさせる冒頭だ。M8も同様。イントロはポップなギターリフで、これも歪みは抑えられている。ラテン調のドラムが入るので、こうして文字面だけを抑えたら、いかにも南米的な方向へ行きそうなものだが、この楽曲の緊張感はそうさせない。決して享楽的にはならないのである。

もっとも、M7にしてもM8にしても、そののちにリズム隊が入ってきてラウドには展開していくので、総体的には誰が聴いてもロック然とした楽曲とは言えるだろう。とりわけM8は間奏などはバンドアンサンブルが結構ワイルド。楽曲にメリハリを付けるために歪ませないところは敢えて歪ませていないと思われる(多分)。そこで言えば、最注目はM10「哲学」ではなかろうか。(おそらく)サウンドはアコギとフィドルでの構成。これまたそこだけで見たらカントリー風を想像してしまうだろうが、これがまったくフォーキーではないのである。楽曲全体を引っ張る弦の単音弾き(あれはアコギか?)の音色と音階はどこかノスタルジックな印象であって、ややもすると楽曲を牧歌的にしてしまうのでは…と思わなくもないわけではないけれど、自分で言っておいて何だがその発想は浅井健一を馬鹿にした話(?)だろう。アコースティック楽器のみの構成、そこで奏でられるメロディーは尖ってもいない。それにもかかわらず、スリリングな楽曲に仕上げてしまうのは──これまた素人考えだが──ちょっと不思議ですらある。それこそ浅井健一という人が持っている磁場が自然とそうさせているのだと思ってしまう。

さて、M7、M8、M10に注目して筆を進めたが、それ以外の楽曲は、もはや言うまでもなく…と言っていいほどに、容赦なくロックである。オープニングのインストナンバー、M1「Super Tonga Party」のジャングルビートに乗る凶暴なエレキギターから、我々の期待をまったく裏切らない。浅井健一の音が堂々と鳴り響く。M2「WAY」で歌声が聴こえてくると、“これだよ! これ!”と高揚する気分を抑えられない。M2にしてもそれ以外にしても歌メロは案外キャッチー。それでいて全然、下世話になってないのは、天性の歌声とヴォーカリゼーションによるものだろう。声にも独特の緊張感があると言ったらいいだろうか。同じメロディを歌ったとしても浅井健一が歌えばそれはどう仕様もなくロックとなってしまうような、ここにも独自の磁場が発生しているように思う。そんな12曲でもある。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着