高橋真梨子の歌謡曲とは
一線を画す大人の魅力を
ソロデビューアルバム
『ひとりあるき』から探る

若手作家陣とAORサウンド

さて、ここからが本題。ムード歌謡とは一線を画す大人の世界。そんな高橋真梨子楽曲の特性は1stアルバム『ひとりあるき』からすでに垣間見ることができる。まず、いわゆるムード歌謡と決定的に違うのは作家陣であろう。尾崎亜美(M1「あなたの空を翔びたい」)、さだまさし(M2「掌」)、来生えつこ&来生たかお(M3「さよならのエチュード」)、クニ河内(M5「マイ・ドリーム」、M8「二人の物語」)、濱田金吾(M10「小さなわたし」)といった布陣。編曲には鈴木 茂の名前もある(M5「マイ・ドリーム」M6「おいでサマー・ホリディ」)。年齢的にもムード歌謡の作家の下の世代と言おうか、当時は概ね20代のまだ若手と言っていい作家が名を連ねている。ムード歌謡を作ったプロ作家を全て調べたわけではないけれど、ザッと見たところ、10歳程度は齢下だったようである。主旋律が歌謡曲とは異なるものになるのも必然だったと言えるし、1976年デビューの尾崎亜美をデビュー曲M1「あなたの空を翔びたい」のコンポーザーにしているのだから、スタッフは端から当時の歌謡曲との差別化を図っていたことは間違いない。グレープのカバーM2「掌」にもその意図が感じられる。

そうしたコンポーザーに呼応してか、サウンドはさらに洗練されている印象。鈴木 茂編曲のM5「マイ・ドリーム」、M6「おいでサマー・ホリディ」を例に挙げれば──バラードナンバーであるM5は、“歌い上げ”系と言ったら語弊があるかもしれないが、歌メロが溌剌としていて、それをピアノとストリングスとでメジャー感の強いサウンドに仕上げている。全体にアッパーな印象で、なおかつゴージャス。優雅と言ってもいいかもしれない。湿っぽさは微塵もない。個人的には重めのコントラバスがサイケデリックロックっぽさを感じなくもないが、それは気のせいだろう。M6はファンキーで軽快なディスコティックなリズムを持つナンバー。こちらはカラッと完全に突き抜けている。ストリングスとホーンセクションが歌に並走しながら楽曲全体を彩り、徹底してさわやかなイメージだ。ギターは鈴木茂本人が弾いているのだろうか。何気ないカッティングも流石に個性的。アウトロでのサックスも実にいい感じだ。

それ以外でも、M1「あなたの空を翔びたい」では流麗なストリングスや管楽器のキラキラとした印象も強い中に、いわゆるバンドサウンドが根底をしっかりと支えていることが確認できる。アカペラ風のコーラスで始まるM3「さよならのエチュード」も同様で、上物の音色の耳がいくものの、ブルージーに歌に寄り添うギターがなかなかいいし、サックスもいい具合に鳴いている。また、M4「YOU'RE SO FAR AWAY」はボサノヴァ調で、M9「夜の顔」ではスパニッシュなギターやフィドル(チェロ?)にラテンフレイバーを感じる。タイプは様々で、全部が全部そうだとは言わないけれど、共通するのはAORの匂いだろう。

彼女は、[ジャズ、フォークからラテンロックなど洋楽のテイストを取り入れたアダルト・コンテンポラリーのサウンド]を持つグループ、ペドロ&カプリシャスの二代目ボーカリストとしてデビューしているのだから、何をか言わんや…であろうが、メロディにしてもサウンドにしても、ムード歌謡はもちろんのこと、自ずと歌謡曲自体とベクトルが異なるのは自然なことであったと言える([]はWikipediaからの引用)。その後、都倉俊一や筒美京平のプロ作家を起用することもあれば、飛鳥涼や井上陽水、玉置浩二らシンガソングライターを起用することもあり、多種多様なコンポーザーに楽曲を依頼しているので、決していわゆる歌謡曲畑の人をまったく用いていなかったわけではない。しかしながら、最初期の布陣には意欲的な姿勢がうかがえるし、それがのちに髙橋真梨子ならではの世界観の構築に至ったというのは、あながち穿った見方でもなかろう。

OKMusic編集部

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