五輪真弓のデビュー作
『少女』に今更ながら驚愕
さらに評価されて然るべき
邦楽アルバムのひとつ

サウンドの
クオリティーの高さは半端ない

さて、本題。この『少女』の素晴らしさとしてサウンド面の良さを上げていいと思う。1970年代前半の録音ということで、さすがにそこまでパキッとクリアーには聴こえないと思う人がいるかもしれないし、それはそうかもしれないけれど、そういうことではなく、どの音も躍動感が半端ないのだ。M1「なわとび」からしてそうで、オープニングから本作の勝利(?)は決まったようなものだ。まぁ、イントロからAメロにかけて、バックは抑制の効いたギターのアルペジオとピアノで、歌の旋律も若干フォーキーではあるので、フォークソング然としたものに感じる人がいるかもしれないけれど(日本語がはっきりと音符に乗っているから余計にそう感じるのかもしれないが)、それも1分を少し過ぎた辺りまでの話で、そこでリズム隊が入ることでそのグルーブ感の確かさを実感するであろう。間奏から入るストリングスもいい。勇壮…というのとはまた違うのかもしれないが、楽曲の世界観を広げているのは間違いない。アウトロ近くのヴォーカルのディレイと相俟って、サイケデリックなイメージもある。デビュー当初、五輪真弓には “日本フォーク界の最重要人物”という惹句が付けられたというけれど、これは完全にフォークという狭いカテゴリーの音楽ではないのである。

ギターのアンサンブルで聴かせる、ややエスニックな印象なM2「朝もやの公園で」を挟み、デビューシングルでもあったM3「少女」が登場。ここで件の“狭いカテゴリーの音楽”というのは決定的になる。ブラックミュージックからの影響を隠し切れない力強いピアノの音色から始まり、歌に寄り添いながら、徐々に熱を帯びていくバンドサウンド。かと言って、ロックバンドのように個々の音が変に突出することはなく、あくまでも歌声を邪魔することなく、これまたしっかりと抑制を効かせながら進んでいく。下品ではない。そういう言い方でもいいかもしれない。サビでサウンドが盛り上がる様子も、俗に言う高揚感とは似て非なるものというか、複雑なテンションとバランスを感じるところだ。特にギターやハープシコード(そう聴こえたが、違うかもしれない)からは冷静さが受け取れる。そして、M3もまた1サビ後半から間奏にかけてストリングスが鳴る。しかも、その弦楽器は2番のサビ前でも若干聴こえてくるものの、それがアウトロでドカンと響き渡るようなことはなく、やはり…というべきか、抑制が効いている。こういうアレンジが楽曲の世界観を圧倒的にふくよかなものにしているのだろう。ドガチャカした音楽に慣れた耳には少しばかり安らぎすら感じる、ちょうどいい塩梅。派手過ぎず、地味過ぎない。実に心地がいい抑揚なのである。

M4「雨」は、ある意味、タイトルから連想する通りのテンポと音色で、全体に落ち着いた印象ではある。重めのストリングスが聴こえてくるものの、どこか優雅な雰囲気もあって、少なくともサイケデリックロックには程遠い感じ。問題は(?)、M5「汚れ糸」である。イントロはM2に近いギターのアンサンブルで始まるので、これも比較的緩やかなナンバーかと思いきや、ベースラインのうねり→圧力のあるピアノ→力強いドラミングと、パートが折り重なっていき、1番サビ後半から間奏にかけてはついにエレキギターが鳴り渡る。これはもう完全にロックサウンドと言っていい。無論そうは言ってもしっかりとアンサンブルがとれていて、勝手気ままなロックバンド的な匂いはないのだが、アルバムを冒頭から聴いてきて、とりわけM1、M3を通過してきたあとでは、あたかもM5でクライマックスのような興奮を覚える。後半では歌にエレキギターが重なり、アウトロにかけての約1分はバンドアンサンブルの妙味だけで迫っていく。超カッコ良いとしか言えない、素晴らしいサウンドである。これでアナログ盤のA面が終了。アルバムの様式を熟知した見事な構成とも言える。

OKMusic編集部

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