つじあやのの良質な歌声と
ウクレレの重要性を
『恋恋風歌』で再確認する

ウクレレが及ぼす、ある種の牧歌的効果

この『恋恋風歌』はM1~3をトーレ・ヨハンソンが、M4~11を根岸孝旨がプロデュースしている。M1「桜の木の下で」、M2「ありきたりなロマンス」はシングル曲なので、本作は冒頭がボーナストラック的な容姿と言えるかもしれないが、それはともかくとして──トーレもまた彼女のヴォーカリゼーションの特徴をしっかりととらえているよう思う。いや、特徴をとらえるとか何とか、BONNIE PINKや原田知世、レミオロメン、カジヒデキといった日本人アーティストを手掛けたプロデューサーを前に何をかいわんやではあろうが、M1からしてそこにはっきりとした意図を感じる。ストリングスから始まるサウンドはどこか映画の劇伴のような雰囲気。こちらにもブラスもバンドサウンドが入ってくるが、全体的にM9よりも抑えられている印象だ。そう感じるのは、歌が前面に出ているからに違いない。相対的にサウンドが後ろ側に感じられるバランスなのである。しかも、ヴォーカルのトーンが低めでありつつ、ウイスパーに近い録音のされ方、ディレイのかけ方だ。声を張り上げていないことが逆に際立っているというか、それを際立出せているのだろう。M2もM3「明日によろしく」もブラスの重ね方はソウル調で、疾走感のあるパーカッションが配されているものの、そこまで圧力は強くなく、それこそThe Cardigansに通じるスウェディッシュポップ的な、アコースティック寄りのロックサウンドに仕上げられている。

眼鏡と並んで、つじあやののトレードと言っていいウクレレも、もちろん本作において重要である。歌声もさることながら、ウクレレが楽曲に及ぼしている効果もまた、決して少ないものではない。その音色はM3辺りから目立ちは始め(というか、M1、M2が極端にウクレレが前に出ていないだけかもしれないが…)、M8「春の陽ざし」ではウクレレが前面に出たサウンドを聴くことができて、そこからM9「風になる」へつながっていく。アルバムの流れとしてもウクレレの使い方が見事だと思うが、個人的には(これは本作の…というよりも、つじあやのというアーティストのサウンド的特徴かもしれないが)、ヴォーカリゼーションと同様、楽曲に特有の雰囲気を持ち込むことに大きく寄与していることに注目した。

M6「帰り道」とM7「ぎゅっと抱きしめて」にそれを見る。印象的なベースラインが全体を引っ張るM6、アウトロでエレキギターが鳴いているM7。ともにロックと言っていいニュアンスである。テンポ感は異なるものの、いずれもシェイカーが疾走感を与え、前のめりな空気を生んでいる。かと言って、性急な感じは薄く、少なくともキリキリとした緊張感はあまりないと思う。この辺はウクレレならではの高音弦の響きによる、ある種、牧歌的と言えるストロークが無関係ではないだろう。どちらもウクレレがなかったとしても、それはそれでよくあるロックサウンドとはならなかっただろうが、ウクレレが入ることで明らかに他に比類なきものに仕上げることができたのだろう。彼女は[フォークソング部で音楽活動を始め(中略)ギターを弾きたかったが、手が小さかったためウクレレを始め]たというから、そもそも音楽キャリアのスタートがその後の音楽性に直結していると言える。音楽的原初体験を大切に育んできたという証左に他ならないわけだが、そこはかなり興味深いところではある([]はWikipediaからの引用)。

OKMusic編集部

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