チューリップ
『TAKE OFF(離陸)』に見る
“和製The Beatles”っぷりと
日本的情緒
随所に垣間見えるオマージュ
M2「明日の風」は安部俊幸(Gu)の作詞、姫野達也(Vo&Gu)の作曲で、ヴォーカルは姫野。M1よりテンポは若干緩やかになるものの、キレのいいドラムス、ギターの鳴りといい、ロック感は変わらない。[ビートルズよりウィングスを意識して作曲された]とWikipediaにはあって、半可通な自分はその辺はよく分からないけれども、このポップ感はPaul McCartney寄りであるとは思う([]はWikipediaからの引用)。とりわけピアノの跳ねた感じからは「Lady Madonna」とかを思い出した(ピアノは財津の演奏)。財津和夫作詞作曲、ヴォーカルの M3「そんな時」もテンポは緩やか。ギターが前面でドラムのビートは抑えめで、フォーキーな印象はある。だが、その前面に出たギターの音がとてもいい。一本一本の弦がしっかりと鳴っていることや、金属弦であることがはっきりと分かる感じは、レコーディング技術もしっかりとしていた証拠だろう。「Norwegian Wood」に近い気もするが、やはり「Here Comes The Sun」へのオマージュを強く感じるところではある。ギターが印象的なのは、続くM4「見すごしていた愛」も同様。エレキギターのアルペジオと、アコースティックギターのストロークは、これもまたいい音で録れているように思う。歌のメロディーはもろに和風というか、日本のフォークソング的ではあるものの、後半にグルーブ感を増していくバンドサウンドは確実にロックバンドのそれである。吉田 彰(Ba)が奏でるベースラインも個性的でいい。M4は作詞が上田雅利(Dr)、作曲が財津、ヴォーカルが姫野で、本作収録以前のライヴでは上田が歌っていたというから、チューリップの分業体制(?)、そのバンドのスタンスが発揮されたナンバーと見ることもできる。
街の雑踏のSE から始まるM5「サンセット通り」は作曲を手掛けた姫野がピアノ弾き、リードヴォーカルを務めたナンバー(作詞は安部)。スロー~ミドルで、メロディーもマイナーな上、サウンドもそのピアノにベース&ドラムのリズム隊のみという2分程度の楽曲だが、それゆえにシャレオツなコード感であったり、バンドアンサンブルの妙味であったりも確認できて、チューリップのポテンシャルを端的に示しているように思う。そこから一転、安部の作曲で、吉田が作詞&リードヴォーカルのロックンロール、M6「おしえておくれ」、さらには財津作詞作曲&歌のM7「セプテンバー」へとつながっていくというのも、チューリップのすごさであろう。ワイルドなツインギターが聴きどころで、歌詞が如何にも男のロックなM6と、財津らしいポップなメロディーを柔らかな歌声で仕上げたM7が連続する──しかも、M5から続くという緩急は、メンバー全員が曲を手掛けることができるというバンドの懐の深さゆえのこと。この辺りをして、アルバム『The Beatles』──俗に言う“ホワイトアルバム”的と言うのは簡単かもしれないが、このバラエティー豊かさはそうそうあるものではない。これもまた彼らが和製The Beatlesと言われた所以なのかもしれない。