何度もリイシューされ続ける
永遠の名盤、
ヴァレリー・カーターの
『愛はすぐそばに』(‘77)で聴く、
色褪せない歌声

長い沈黙、そして復帰。
ふいに届いた訃報…。

後年、彼女はローウェルについて“ソウル・メイト”と言っていたが、ヴァレリーにとって彼は師匠、それ以上の存在だったに違いない。それが原因なのかどうか、以降、彼女の活動は散発的なものとなる。次に彼女のアルバム『ザ・ウェイ・イット・イズ(原題:The Way It Is)』が届けられるまで、我々は18年も待たなければならないのだ。

待っていたのはファンだけでなく、同業のミュージシャンも彼女の不在を惜しんでいた。これはファンにはよく知られたエピソードだが、スペンサー・デイヴィス・グループ→トラフィック→ブラインド・フェイス→ソロの活動で知られるスティーヴ・ウィンウッドが1982年に出した「青空のヴァレリー(原題:Valerie/作詞ウィル・ジェニングス)」(アルバム『トーキング・バック・トゥ・ザ・ナイト(原題:Talking Back To The Night)』収録)は、シーンから消えてしまったヴァレリーを案じ、復帰を望んで彼女に捧げられたものだという。あくまで噂でしかないが、歌詞を読むとそれらしい暗喩に富む。ウィンウッドとヴァレリーの共演なんて実現してほしかった。

1996年になって、ようやくヴァレリーはアルバム『ザ・ウェイ・イット・イズ』でシーンに戻ってくる。彼女の復帰を祝うように、フィービー・スノウ、ライル・ラベット、エドウィン・マケイン、ジェームス・テイラー、リンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウンらがコーラスで参加しているほか、ジャクソンと故ローウェル・ジョージ、ヴァレリーの共作曲、ニール・ヤングやヴァン・モリソン、トム・ウェイツらのカバー曲が含まれるなどの工夫もあったが、何よりもみずみずしいヴァレリーのヴォーカルが健在であったことに、ファンは安堵したのだった。以降、ヴァレリーはコンスタントに活動する。とはいえ、大ヒットが出るわけでもなく、活動が控えめなのは以前と変わらないが、日本にも何度か公演に訪れ、佐橋佳幸や鈴木祥子といった日本のアーティストのレコーディング、ライヴに参加するなど、交流もあった。

残念なことに、ヴァレリーは2017年3月、心臓発作で亡くなってしまった。ドラッグが遠因とも言われる。エンディングは苦いものになってしまうのだが、忘れ形見のように彼女の遺した未発表音源、発掘音源(生前交流のあった、何とプリンスとの共作曲を含む)が『ザ・ロスト・テープス 第1集(原題:The Lost Tapes Vol.1)』(‘18)、『同 第2集(原題:The Lost Tapes Vol.2)』(‘22)が出ている。

改めて、彼女のソロ・デビュー作『愛はすぐそばに』を聴いて想う。くどいほどに言うが、本コラムだけでなく、このアルバムについては個人のブログも含め、すでに数多く紹介されている。それくらい、必聴盤だということだ。未聴の方は是非この機会に聴いてみて欲しい。今ではこのアルバムは70年代に出た数ある女性シンガーソングライターの名作を代表する一枚だと信じて疑わない。

TEXT:片山 明

アルバム『愛はすぐそばに(原題:Just A Stone’s Throw Away)』1977年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. ウー・チャイルド/Ooh Child
    • 2. リンギング・ドアベルズ・イン・ザ・レイン/Ringing Doorbells In The Rain
    • 3. ハートエイク/Heartache
    • 4. フェイス・オブ・アパラチア/Face Of Appalachia
    • 5. ソー・ソー・ハッピー/So, So Happy
    • 6. ア・ストーンズ・スロウ・アウェイ/A Stone's Throw Away
    • 7. カウボーイ・エンジェル/Cowboy Angel
    • 8. シティ・ライツ/City Lights
    • 9. バック・トゥ・ブルー・サム・モア/Back To Blue Some More
『Just A Stone’s Throw Away』(‘77) / Valerie Carter

OKMusic編集部

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