これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!

これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!

80年代屈指のメロディーメイカー、ハ
ワード・ジョーンズの『ヒューマンズ
・リブ』は名曲満載の佳作

『Humans Lib』(’84)/Howard Jones

『Humans Lib』(’84)/Howard Jones

80年代初頭に登場したテクノポップはシンセの音色の新しさや複雑なシンコペーションのある打ち込みのリズムで、あっと言う間にポップスの中心に君臨することになるのだが、当初は凝ったスタジオでの音作りに重点が置かれ、ポップスの王道であるグッとくるメロディー作りが激減していた。

しかし、2、3年も経つとシンセのワンパターンな音は飽きられていった。そんな時、1983年にリリースされたハワード・ジョーンズのシングル「ニュー・ソング」はポール・マッカートニーに代表されるような王道のブリティッシュポップス作品で、世界中で大ヒットした。今回紹介する彼のデビュー作『ヒューマンズ・リブ(邦題:かくれんぼ)』は「ニュー・ソング」をはじめ、彼のメロディーメイカーとしての才能が溢れ出たロック史上に残る佳作となった。

80年代に始まった
“音楽=消費物”という考え方

80年代に入って誕生したMTVは、それまでのポピュラー音楽の在り方を変えてしまった。ロックは聴かせるものから観せるものへと変わったのだ。60年代の後半からリアルタイムでロックを聴いていた僕らの世代も、最初は怖いもの見たさで結構楽しんだのだが、あまり長くは続かなかった。ビジュアルや仕掛けにパワーを使い果たしたのかどうかは分からないが、70年代までにたくさんあった“良い曲”が80年代のシンセポップ時代にはめっぽう減ってしまっていたのだ。
ザ・ビートルズ、ニール・ヤング、エルトン・ジョン、ブレッド、ポール・ウイリアムス、サイモン&ガーファンクル、ギルバート・オサリバン、バッドフィンガー、キャロル・キング、そしてモータウンやポップ・カントリー勢などの曲に見られたプロのソングライティングが、気づけばなくなっていた。

その昔、シングルでリリースされていたダンヒル・ヒットシリーズなんかも良い曲が多かった。こういうテイストの(日本で言えば阿久悠・筒美京平コンビか)100年経っても聴き続けられる名曲や名盤が、80年代には圧倒的に少ない。ロックの魅力は演奏にあるのか曲にあるのか、70年代にはそういう命題を証明しようとしたものだが、MTVが登場してからというもの、ロックは見栄えに魅力があるという答えを出してしまった。

そして、この時代からポピュラー音楽は消費物であるという考え方が広がっていく。シングル曲をダウンロードして、3カ月ほどすると削除するという現在のリスニングスタイルは、まさに“音楽=消費物”だろう。

第2次
ブリティッシュ・インヴェイジョン

そんな時代、アメリカで生まれたMTVを席巻したのは、カルチャー・クラブ、ヒューマン・リーグ、トンプソン・トゥインズ、デュラン・デュランら、ビジュアル戦略で殴り込みをかけたイギリスのアーティストたちだった。第2次ブリティッシュ・インベイジョンの波は世界中を飲み込んだが、やはりシンセポップの仕上がりは浅く、アルバムよりもシングルで勝負するレコード会社の売り方もあって、あまり長くは続かなかった。

そんな時に「ニュー・ソング」を引っ提げて登場してきたのがハワード・ジョーンズだった。この曲は80年代のシンセポップというよりは、前述した70年代のシンガーソングライターのようなテイストで、同時代の他のアーティストと比べると抜きん出た存在であった。実際、デビューシングルであるにもかかわらず、全英チャートで3位まで上昇する結果となったのである。ただ、この時点では、まだ僕は彼に対して一発屋的な雰囲気を感じていたのも事実である。

本作『ヒューマンズ・リブ』について

そして、「ニュー・ソング」から半年ほど経って、彼のデビュー作となる『ヒューマンズ・リブ』がリリースされた。もちろん、アルバムの作りとしてはシンセポップである。しかし、どの曲も重厚(唯一「ニュー・ソング」だけが軽い仕上がり)で、あくまで歌を主体としているだけに、硬質というよりは人間味のある軟らかなサウンドとなっている。

これはハワード・ジョーンズの人柄からくるのか、それを考慮した作り込みなのかは分からない。ひとつ言えるのは、彼の音楽はディスコでは受けないこと。ディスコで使うにはシリアスすぎるのだ。そういう意味では、彼の音楽は方法論としては80年代のスタイルであるものの、中身は70年代のシンガーソングライターと同じようなナチュラルでオーガニックな感性を持っているのだと思う。
収録された全10曲の作詞は、哲学的な同時の世界を持つビル・ブライアントが手がけ、作曲はジョーンズが行なっている。M2.「What Is Love」、M3.「Pearl In The Shell」、M4.「Hide And Seek」の曲の完成度(流れも含めて)は高く、ポール・マッカートニーやエルトン・ジョンのようなブリティッシュポップスの王道を行く職人の風格すら感じさせる。彼の実質的な創作活動が10年ほどで終わってしまったのが不思議なぐらい、才能に満ちあふれている。個人的にはシンセポップでロック史に残る作品はすくないと思っているが、本作は80年代を代表する素晴らしい作品である。
演奏はほぼ彼ひとりによるもので、シンガーとしてだけでなくキーボードプレーヤーとしても彼は非常に優れたアーティストだ。若い頃はエマーソン・レイク&パーマーやスティーヴィー・ワンダーに影響されたようで、才能ある先達の技術をしっかり学び取っていることがよく分かる。
ただ、スティングやフィル・コリンズらと比べると、アーティストとしての才能自体は負けていないのに、彼の線の細さを感じてしまうのはバンドで活動していないからだと思うのだ。曲作りから演奏に至るまで、ひとりだけで完結できてしまうと、どこかで煮詰まってしまうのだろう。

次作の『Dream Into Action』(‘85)は良い出来であったものの、それ以降は普通のミュージシャンになってしまった。間違いなく才能はあるのだから、彼にはもうひと花咲かしてほしいと願っている。本作以外でお薦めなのは、今は入手しにくくなっているが本作の12インチバージョンを集めた6曲入りのミニアルバム『The 12inch Album』(’84)。もし中古レコード店で売っていれば聴いてみてほしい。新たな発見ができるかも♪

TEXT:河崎直人

アルバム『Humans Lib』1984年発表作品
『Humans Lib』(’84)/Howard Jones

OKMusic編集部

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