カバーも含めて絶品なロッド・スチュ
ワートの『Never A Dull Moment』

 1970年代後半、“スーパースター”の名を欲しいままにしたのがロッド・スチュワートである。1975年にリリースされたアルバム『アトランティック・クロッシング』からはバラード「セイリング」が大ヒット、1978年に発表されたアルバム『スーパースターはブロンドがお好き』はディスコサウンドを取り入れた「アイム・セクシー」がチャートを駆け上り、全米NO.1のヒットを記録。日本でも人気が大ブレイクするが、過去と比べるとチャラい印象も否めなかったため、昔からのファンからのバッシングも受けることになった。流行りを取り入れ、ポップになったとはいえ、ロッドが素晴らしいヴォーカリストであることには変わりはないのだが、やはり名盤と問われれば初期のソロ作品を挙げたい。おそらく、ソロとしての成功を決定付けた「マギー・メイ」が収録されている『エヴリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー』(1971年/本国英国では1位、全米でも2位)が名盤として数多く取り上げられていると思うが、個人的にダントツにリピートして聴いたのは前作の続編とも評価されている『ネヴァー・ア・ダル・モーメント』である。決して派手なアルバムではないし、代表曲が収録されているわけではないが、聴くほどに味わいが増し、ロッドのハスキーなボーカルが沁みてくる中毒性の高い一枚なのである。そして、カバーのセンスが素晴らしいのだ。

セレブなスーパースターは今も現役バリ
バリ?

 ロッド・スチュワートがジェフ・ベック・グループに参加していたことや、フェイセズのヴォーカリストだったことはクラシックロック好きのリスナーには周知の事実だと思うので、説明は省いて、現在のロッド・スチュワートは2015年にフェイセズを再結成したいという野望(?)を抱いていたり(それにはローリグストーンズのロン・ウッドのスケジュールが関わってくるのだが)、コンサート中に蹴ったサッカーボールが客に当たって訴訟を起こされていたりと、相変わらず世間を騒がせているようである。実際、70年代後半から80年代にかけてのロッドはスーパースターの名を欲しいままにしていた。音楽雑誌を開くと、ブロンドの美女に囲まれ、夜な夜なパーティを開いているイメージの華やかなライフスタイルが紹介されていたことを思い出す。個人的にはロッドに限らず、当時、そういう欧米のアーティストは雲の上の存在で、憧れにも嫉妬にも似た感情を抱いていた。日本にも才能あふれるロックアーティストがたくさんいるのに、海の向こうではプール付きの豪邸に住んで、高級車を乗りまわして贅を尽くした生活を送っている。このギャップはいったい、何だろう?と子供ながらに、いや、子供だからこそ猛烈な疑問を抱いていた。そして、ロッド・スチュワートは、そのアイコン的存在だったのである。ちなみに1979年にロッドはソロとしての初来日公演を行い、その時のチケットはハガキによる抽選システム。応募したら、前から10番目のチケットが届いて(届いたのか取りに行ったのかよく覚えていないが)、夢心地になったが、本当にものすごい競争率だったらしい。初めて見たロッドのライヴは理屈抜きに楽しくて“こういう人のことをエンターティナーというんだろうな”とぼんやり思ったのを覚えている。“声”そのものに聴く人を惹き付ける強烈な個性があり、なおかつ華があるヴォーカリストはなかなかいない。そんなロッドが70歳を目前にした今もフェイセズ再々結成(70歳アニバーサリーなのかも)に野心を燃やし、ギラギラしているのは嬉しい限りである。ロックヴォーカリストたるもの、幻想を抱かせてなんぼだと思うからだ。

アルバム『Never A Dull Moment』

 ロン・ウッドの共作曲でメロディーが光る「TRUE BLUE」で始まる本作はフェイセズの代表作『馬の耳に念仏』から、わずか8カ月でリリースされた。この時期はバンドと並行してソロ活動を行なっていたこともあり、メインで参加しているのはフェイセズのメンバーである。オリジナルとカバーのバランスが絶妙な作品でもあり、ジミ・ヘンドリックスの「ANGEL」(当時はロッドのオリジナルかと思っていた)や、ボブ・ディランの「ママ・ユー・ビーン・オン・マイ・マインド」、《あなたが去ってしまうなら盲目になったほうがマシだ》と歌うエタ・ジェイムスの永遠の名曲「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」、サム・クックのソウルフルでゴキゲンなナンバー「トゥイスティン・ザ・ナイト・アウェイ」が収録されている。ロッドはスーパースター黄金期が過ぎ去り、21世紀になってからスタンダードのカバー集を発表し、大人のシンガーとして揺るぎないポジションを獲得するが、個性の強い曲も自分のモノにしてしまうヴォーカリストとしての力量は昔から発揮されていた。ライヴに通じる臨場感のある演奏が聴けるのも魅力であり、何とも言えない切なさをふくんだロッドの声と表現力がとにかく素晴らしい。ブロンド美女とサッカーに目がないシンガーというイメージは今なお根強いのかもしれないが、なぜ、ロッドがサバイブし続けてきたかが一発で分かる。ダイアモンドのように眩しい輝きではないが、聴き込むほどに深みと輝きを増していくアルバムとしてお勧めしたい。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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