パンクロックにも影響を与えた
ドクター・フィールグッドの
白熱のライヴ盤『殺人病棟』

『Stupidity』(‘76)/Dr.Feelgood

『Stupidity』(‘76)/Dr.Feelgood

ドクター・フィールグッドは1971年にウィルコ・ジョンソンがリー・ブリロー率いるザ・ビッグボーイ・チャーリー・バンドにギタリストとして加入し、そのキャリアがスタートする。彼らはブリンズレー・シュウォーツ、キルバーン&ザ・ハイ・ローズ、ビーズ・メイク・ハニー、マッギネス・フリントらと並んで、パブロック初期から活動する代表的なグループのひとつとして知られている。

イギリスで生まれたパブロックは、文字通り居酒屋(パブ)でライヴを行なう(ロック)アーティストたちの総称で、70年代初頭から中頃にかけてその全盛期を迎える。パブロックグループの共通項は、パブで演奏するということだけである。キャパの小さいパブでの演奏は、最低限のメンバー編成とそこそこの音量しか出せないだけに、自ずとブルース、R&B、フォーク、カントリーなどを背景にしたルーツ系ロックが中心となるため、パブロックのグループは音楽的に似た部分が多い。

今回紹介するドクター・フィールグッドは、キレの良いリズムと泥臭いR&B的な演奏が身上であり、パンクロックにも通ずるシンプルなサウンドが大いに受けた。本作『殺人病棟(原題:Stupidity)』は彼らの3作目となるライヴ盤で、パブの生演奏で鍛えられた彼らの真骨頂が味わえる(全英アルバムチャート1位)。

スタジアム化するロックが失ったもの

50年代にアメリカで生まれたロックンロールは、60年代の半ば頃にはロックとなり、周辺音響機器の進化もあって大音量での演奏が可能となる。大音量によるコンサートが実現すると、一度にたくさんの聴衆を集められるだけでなく、その音楽自体も大音量に見合ったスタイルへと変化していく。60年代後半〜70年代初頭のイギリスではブルースロックから進化したハードロックや、クラシックをベースにしたプログレッシブロックが生まれ、それらは小さなバーやライヴハウスでは楽しめない程大きなスケールへと成長する。

しかし、どんな分野でも同じだが、物事は一元的には語れないものだ。60年代末に登場したレッド・ツェッペリンやキング・クリムゾンといったグループは、大きなホールで楽しむのには向いているかもしれないが、少人数しか入れないホールではアンプラグドでもない限りその魅力は伝わらないだろう。大きなスタジアムで観戦するプロ野球と、市民グラウンドなどで楽しむアマチュア草野球がどちらも野球であるように、スタジアムで聴くロックと小さなライヴハウスで聴くロックは、どちらも同じ「ロック」である。しかし、その内容はまったく違う性質であることも少なくない。

パブロックの文化

60年代の終わりから70年代初頭にかけてイギリスで流行したのが、パブロックと呼ばれる文化である。パブロックとは文字通り“居酒屋+音楽”で、要するに大きなホールで座って大人しくロックを聴くのではなく、酒を呑みながら大声で喋りつつ音楽も聴きたい人に向けたサービスである。

もちろん、お気に入りのバンドを見に行くためにパブへ向かう人もいるだろうが、酒を呑んだり仲間としゃべったりするのが目的で出かけ、たまたま出演していたバンドの演奏を聴いてファンになるということも多い。パブに来るのはライヴを観たい人ばかりではないので、多くの店がチャージを取らず、金はないが音楽が好きな労働者たちにとって、ストレス発散にはもってこいの場所であった。

60年代の中頃、ビートルズをはじめ、ローリング・ストーンズやキンクス、デイブ・クラーク・ファイブなど、いわゆる第一次ブリティッシュ・インヴェイジョンと呼ばれるムーブメントが起こったが、パブで活動するアーティストは、そういったいわゆるスターグループとは異なり、演奏場所さえ確保できないようなグループがそのルーツにある。

ただ、パブロックのグループは「シンプルな曲構成」「歌心のある演奏」「労働者階級を意識した作詞」などを持ち味とし、大ヒットを飛ばして富裕層になったスターとは違う価値観を大切にしていたのも事実である。パブロックのアーティストが、70年代中期に登場したパンクロッカーの音楽性と似ているのは、ある意味で“反体制”を貫いていたからに他ならない。

OKMusic編集部

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