ロックサイドから
フュージョンに歩み寄った
ジェフ・ベックの
『ブロウ・バイ・ブロウ』

『Blow by Blow』(’76)/Jeff Beck

『Blow by Blow』(’76)/Jeff Beck

ジェフ・ベックは類いまれなテクニックを持ったギタリストである。今から半世紀ほど前にはエリック・クラプトンやジミー・ペイジと並んでブリティッシュロック・ギタリストの御三家として当時のロック少年たちから崇拝されていた。しかしベックは、例えばクラプトンの「クロスロード」(クリーム)やペイジの「胸いっぱいの愛を(原題:Whole Lotta Love)」(レッド・ツェッペリン)といった鉄板となる曲に恵まれず、ギターのテクニックはピカイチであっただけに、それだけがファンにとっては悔やまれるところであった。

もちろんハードロックの原型ともなった第1期ジェフ・ベック・グループの『トゥルース』(‘68)や『ベック・オラ』(’69)でも秀逸なギタープレイは聴けるのだが、バンドアンサンブルを重視するあまり短くまとまったソロが多く、ベックファンはいつも欲求不満を感じていたのだ。その後の第2期ジェフ・ベック・グループではソウルやファンクも取り入れ、『ジェフ・ベック・グループ(通称オレンジアルバム)』(‘72)収録の「ゴーイング・ダウン」などでは溜飲が下がるプレイが聴けるが、もっと弾いてほしくなるのがファン心理というものである。“70年代のクリーム”と称されたベック・ボガート&アピス(以下、BB&A)の結成で、ようやく鉄板のプレイが生まれる下地が出来上がったが、個性の強いトリオという編成は人間関係がうまくいかない場合が多いらしく、結局アルバム2枚をリリースするのみで解散してしまった。

今回取り上げる『ブロウ・バイ・ブロウ(発表当時の邦題は“ギター殺人者の凱旋”)』は、次作の『ワイアード』と並んで彼の多彩なプレイを中心にしたソロ名義での必殺インストアルバムである。本作は、よくフュージョン寄りの作品だと言われるが、ギターに関して言えばロックのフレージングのみしか使っておらず、彼がロッカーとしての矜持をもってアルバム制作に臨んでいることが分かる。

予言的なベックのギタープレイ

ブルースが下地になっていた70年代初頭のブリティッシュロック界で、ロックのイディオムでフレーズを組み立てていたのはジミヘン(アメリカ人だがイギリスで活動していた)とジェフ・ベックのふたりだと思う。彼らももちろんブルースの影響は受けてはいるが、その才能と努力でロックギターを進化させたのである。特にベックは、ビブラート、トーンアームを使ったベンド、フィードバック、スライドなど、のちにハードロックやヘヴィメタルのプレーヤーが好んで使う技術を60年代には既に編み出しているのだから、まさにロックギターのイノベーターである。

当時、ジャズロックのグループ、マハビシュヌ・オーケストラを率いていたギタリストのジョン・マクラフリンもまた、驚くべきテクニックを持っており、彼はジャズサイドからブリティッシュロックのギタリストに大きな影響を与える存在であった。日本では、いまは何故かすっかり忘れられている感のあるマクラフリンであるが、マハビシュヌ・オーケストラのデビュー盤『内に秘めた炎(原題:The Inner Mounting Flame)』(‘71)の破壊力は今聴いても凄まじいものがある。昔(半世紀ほど前)は中学生でもプログレ感覚でマハビシュヌ・オーケストラを聴いていたものだが、実際にプログレ的な要素もあるので興味のある人はぜひ聴いてみてほしい。ベックはマハビシュヌ・オーケストラの音楽に影響を受けており、本作の次にリリースしたこれまた傑作の『ワイアード』(’76)ではマハビシュヌ・オーケストラからヤン・ハマー(Key)とナラダ・マイケル・ウォルデン(Dr)を起用している。

バンドアンサンブルからギターを主役に

冒頭にも述べたが、ベックはデビュー時からベック・ボガート&アピスに至るまでバンドアンサンブルを中心に音楽を組み立てており、そのせいでベックファンを欲求不満にさせていた。BB&A解散後、彼はスティービー・ワンダーやエディ・ハリスなど、いくつかのセッションにギタリストとして参加するのだが、その経験からギターを中心にした新たな方向性を見出したのであろう。

OKMusic編集部

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