永遠の名曲「マイ・ラブ」を収録した
ポール・マッカートニー&
ウイングスの
『レッド・ローズ・スピードウェイ』

『Red Rose Speedway』(’73)/Paul Mccartney & Wings

『Red Rose Speedway』(’73)/Paul Mccartney & Wings

ファンの方はすでにご存知だと思うが、12月7日にポール・マッカートニー・アーカイヴ・コレクションの新作がリリースされる。今回はウイングス名義で出された『ワイルド・ライフ』と『レッド・ローズ・スピードウェイ』の2作品。『レッド・ローズ・スピードウェイ』はオリジナル版がリリースされる際、そもそも2枚組の予定であったことは周知の事実で、今回はシングルのみでリリースされたナンバーや豪華本&フォトブックなどが収録されるということで、特に興味は尽きない。

ビートルズ解散後のソロ活動

現在60歳すぎの洋楽ファンにとって、ビートルズはあまり近しい存在ではなかった。僕も含めこの年代の洋楽好きは、レッド・ツェッペリン、イエス、EL&P、ブラック・サバス、CSN&Yらに代表されるニューロック世代で、ハードロック、プログレ、フォークロック、シンガーソングライター系など、新しいサウンドが次々に現れてきていた時代である。なので、解散するかしないかの頃のビートルズをわざわざ聴かなくても、他に注目すべき音楽が満ちあふれていたのだ。

ビートルズが解散し、まず僕たちニューロック世代が耳にしたのは、ソロとなったジョン・レノンの『ジョンの魂』(‘70)だったと思う。当時、このアルバムからシングルカットされたジョンの叫びとも言える「マザー」には大きな衝撃を受けた。そして、同じく70年にリリースされたのがジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』。このアルバムに収録されシングルヒットした「マイ・スイート・ロード」や「美しき人生(原題:What is Life)」を聴き、ジョージのメロディーメイカーぶりに驚いたものだ。また、71年にリリースされたリンゴ・スターのシングル「明日への願い(原題:It Don’t Come Easy)」も良い曲で、ちゃっかりシングル盤を買ってよく聴いた。これらのアルバムやナンバーは日本でも大いに売れていたのだが、ビートルズの曲作りの要と言えばポール・マッカートニーであったはず…。その頃、彼は何をしていたのか。

ポールらしくない初期のソロ作

当時、レコード(もちろんLP)は値段が高く、お金のない中学生はシングル盤のヒット曲を買うことが多かった。その代わりといってはなんだが、学校から帰ると就寝時間まではFMラジオを聴き、就寝時間以降は深夜放送(こっちはAM)を朝まで聴くというのが、洋楽ファンの若者の日課であったように思う。当時、関西のFM大阪というラジオ局で、ロックのアルバムを1枚まるまるオンエアするという番組があった。それがFM大阪の『ビート・オン・プラザ』で、番組のテーマ曲として毎日かかっていたのがポールのデビューソロアルバム『マッカートニー』に入っていた「ママ・ミス・アメリカ」というインスト。今から思えばこの曲は、今で言うジングルみたいな感触で、独立した曲というイメージはなかった。

このポールのソロデビュー作は、彼の自宅で録音されたチープな音質で、演奏は全て彼の多重録音によるもの。いわば宅録の元祖みたいな作品である。当時、この作品がどんな立場にあったのかまったく記憶にない。その後、リンダ・マッカートニーとの共作としてリリースされたセカンドソロ『ラム』(‘71)にしても、存在は知っていたが当時リアルタイムで聴いておらず、こちらも印象は薄かった。今から思えば、ポールは何を考えていたのだろうか。ビートルズの他のメンバーが成功し、ソロアーティストとして評価されていたことはもちろん知っていたはずだし、何より稀代のメロディーメイカーとして知られる彼が、それらしい活動をしていないのはじつに不思議である。うがった見方をすれば、そういった過去のイメージを払拭するために、自分とは違ったイメージの仕事をしていたのか…。ただ、どちらのアルバムも好セールスを記録していたことは確かで、ビートルズ時代からのファンが買っていたのだろうか。

当時の音楽評論家はどちらのアルバムも酷評していたようだが、“ポールの才能はこんなもんじゃない”とか“彼ならもっと良い曲が書けるはず”とか、世間の勝手な思い込みにポールは困っていたのではないか。それが証拠に、この2枚のアルバム(特に『ラム』)を今聴くと、決して派手ではないけれど、滋味に満ちた渋めの良い曲が詰まっているからだ。ひょっとすると、当時の“あり得ないほどのニューロックの波”がリスナーや評論家の冷静さを狂わせていたのかもしれない…。

ウイングスの結成

そして、彼はほどなく新しいグループとなるウイングスを結成し、『ラム』と同年の71年終わりに、1stアルバム『ワイルド・ライフ』をリリースする。僕は最初、ジョンのプラスティック・オノ・バンドに対抗したものかと思ったが、どうやらそれだけではなさそうだ。このアルバムのサウンドは荒削りのロックで、ポールの原点回帰への意気込みが窺えた。デニー・レインという優れたアーティストを迎えることで、ポールの創作欲にも火がついたように思う。というか、ポールはきっとバンドの中で切磋琢磨しながら前に進みたいタイプなのだ。おそらく、同じグループ内に才能あるミュージシャンがいればいるほど彼は良い曲が書けるし、良い演奏ができるのではないかと思う。この『ワイルド・ライフ』は前半部分(ロックンロールがベース)と後半部分(メロディアスなナンバーが多い)ではまったく違うテイストで、アルバムとしてのまとまりはないが、ポールの半生を振り返っているような作品となった。

本作『レッド・ローズ・
スピードウェイ』について

ポールは初心にかえって、ツアー生活に明け暮れる。そして、ライヴバンドとして力をつけていき、ヘンリー・マッカロクが加入した頃にはポールがイメージした曲を具体化できる優れたグループへと成長していた。ウイングスの2ndアルバムをリリースするためにポールは多くの曲を書き、「メアリーの子羊(原題:Mary had A Little Lamb)」「ハイ・ハイ・ハイ」「死ぬのは奴らだ(原題:Live and Let Die)」などのシングルヒットを生む。彼はこれらの曲も次作の『レッド・ローズ・スピードウェイ』に収録し、2枚組としてリリースしようとしたがレコード会社に止められ、結局はシングルアルバムとなった。

本作に収録された「マイ・ラブ」はポールならではのメロディーメイカーぶりが発揮された稀代の名曲で、先行シングルとしてリリースすると世界的に大ヒットする。日本でもラジオや地元のレコード店で1日に何度もオンエアされていた記憶がある。個人的にはこの「マイ・ラブ」を聴いて、ポールが他のビートルたちに負けず劣らず素晴らしいソロアーティストであることが証明されたのだ。この曲、ポールのソングライティングはもちろん歌も素晴らしいが、間奏でのヘンリー・マカロックのリードギター(僕はロック史に残る名演だと思う)がよく歌っているし、バックに流れる抑えめのストリングスやエレピも文句なしだと思う。ポールがビートルズ時代に「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」(アルバム『レット・イット・ビー』に収録))のストリングスが気に入らないと文句を言った気持ちが分かる。この「マイ・ラブ」が全米チャート1位となり、その後にリリースされた本作『レッド・ローズ・スピードウェイ』も大ヒット(3週連続全米1位)、ポールは見事にロック界の第一線に返り咲いた。

本作には他にもパブロック風の「ワン・モア・キス」、エキゾチックな「ホエン・ザ・ナイト」、『ラム』のアウトテイク「リトル・ラム・ドラゴンフライ」など、興味深いナンバーが収録されている。ただ、ヒットした「ハイ・ハイ・ハイ」(放送禁止になる可能性が高かった)や「死ぬのは奴らだ」(映画『007』のサントラに使うことが決まっていたから、契約上の問題か)は収録されておらず、これらの曲が本作に含まれていれば、もっと大きなヒットが望めたのではないかと思うのだ。それだけが残念なところ。

何はともあれ、ポールは本作で目覚めた。以降は名作『バンド・オン・ザ・ラン』(‘73)をはじめ、『ヴィーナス・アンド・マーズ』(’75)、『スピード・オブ・サウンド』(‘76)など好調をキープし続け、現在に至るのだ。

本作はポール復活のきっかけとなった作品なので、ウイングス時代のアルバムを聴いたことがないなら、この機会にぜひ体験してみてください。きっと新しい発見があると思うよ♪

マッカートニー・アーカイヴ・
コレクション

今回、12月7日にリリースされる本作のスペシャル版は、【2CDスペシャル・エディション】、【2LPオリジナル・ダブル・アルバム・ヴァージョン】と【3CD+2DVD+1Blu-rayデラックス・エディション】の3パターンで、デラックス・エディションには128ページの本、64ページのフォトブックも同梱されるそうだ。

TEXT:河崎直人

アルバム『Red Rose Speedway』1973年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. ビッグ・バーン・ベッド/Big Barn Bed
    • 2. マイ・ラヴ/My Love
    • 3. ゲット・オン・ザ・ライト・シング/Get On The Right Thing
    • 4. ワン・モア・キッス/One More Kiss
    • 5. リトル・ラム・ドラゴンフライ/Little Lamb Dragonfly
    • 6. シングル・ピジョン/Single Pigeon
    • 7. ホエン・ザ・ナイト/When The Night
    • 8. ループ /Loup (1st Indian On The Moon)
    • 9. メドレー/Medley
    • ・ホールド・ミー・タイト /Hold Me Tight
    • ・レイジー・ダイナマイト/Lazy Dynamite
    • ・ハンズ・オブ・ラヴ/Hands of Love
    • ・パワー・カット/Power Cut
『Red Rose Speedway』(’73)/Paul Mccartney & Wings

OKMusic編集部

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