フォーク・ブルースというスタイルで
今なお尊敬を集める
伝説のブルースマン、
ミシシッピー・ジョン・ハート

『Avalon Blues』(’28)/Mississippi John Hurt
その一方で、いわゆるロック系のアーティスト、ブルース好きからはその名を語られることはまずないが、フォーク系の人から尊敬を集め、頻繁に語られるのが、レッドベリーだったり、今回の主役、ミシシッピー・ジョン・ハート(以降、J.ハートと表記)の名前である。
実際に音源を聴いていただくと分かると思うが、J.ハートの演奏スタイルというのはロバート・ジョンソンやサンハウスら、デルタ・ブルースと紹介される人たちのような、12小節で構成される曲とも違うし、演奏スタイルも独特のタイミングで弦をはじいたり、ボトルネックを使ったスライド奏法などとは違い、スリー・フィンガーに近いものが大半だったりする。ヴォーカルも前者やハウリン・ウルフやチャーリー・パットン、ブラインド・ウィリー・ジョンソンのようなアクの強いものではなく、穏やかで、温かなものが伝わってくる。例外でレッドベリーなんかは、犯罪歴もあり、刑務所に入っていたほどであるから、どこかヴォーカルにも荒々さがあるが、J.ハートの素朴というか朴訥な声からは、厳しい時代を生きてきたものの諦観のようなものさえ感じさせる。ブルースには違いないが、そこから伝わってくるのはアメリカン・フォークソングだ。

『American Epic Episode 1: The Big Bang』
J.ハートがこのドキュメンタリー映画でカーター・ファミリーらとともに紹介されたのには訳がある。少し、生涯をたどってみよう。