フォーク・ブルースというスタイルで
今なお尊敬を集める
伝説のブルースマン、
ミシシッピー・ジョン・ハート

『Avalon Blues』(’28)/Mississippi John Hurt

『Avalon Blues』(’28)/Mississippi John Hurt

この連載ではブルースのミュージシャンのアルバムもよく取り上げている。それだけブルースが今日のロックやR&B等に影響を及ぼしている源泉のような音楽であり、ブルースに触れたがためにギタリスト、シンガーになったミュージシャンも数多いというのもその理由のひとつかもしれない。で、影響力の強さ、エリック・クラプトンやキース・リチャーズをはじめとしたレジェンド級のアーティストらが畏敬を持って語る、ロバート・ジョンソンやマディ・ウォータース、さらにはハウリン・ウルフやジョン・リー・フッカー、ブッカ・ホワイト、バディ・ガイ、サン・ハウスら、この人たちの名が挙がるのは、これはまぁ当然というものだ。

その一方で、いわゆるロック系のアーティスト、ブルース好きからはその名を語られることはまずないが、フォーク系の人から尊敬を集め、頻繁に語られるのが、レッドベリーだったり、今回の主役、ミシシッピー・ジョン・ハート(以降、J.ハートと表記)の名前である。

実際に音源を聴いていただくと分かると思うが、J.ハートの演奏スタイルというのはロバート・ジョンソンやサンハウスら、デルタ・ブルースと紹介される人たちのような、12小節で構成される曲とも違うし、演奏スタイルも独特のタイミングで弦をはじいたり、ボトルネックを使ったスライド奏法などとは違い、スリー・フィンガーに近いものが大半だったりする。ヴォーカルも前者やハウリン・ウルフやチャーリー・パットン、ブラインド・ウィリー・ジョンソンのようなアクの強いものではなく、穏やかで、温かなものが伝わってくる。例外でレッドベリーなんかは、犯罪歴もあり、刑務所に入っていたほどであるから、どこかヴォーカルにも荒々さがあるが、J.ハートの素朴というか朴訥な声からは、厳しい時代を生きてきたものの諦観のようなものさえ感じさせる。ブルースには違いないが、そこから伝わってくるのはアメリカン・フォークソングだ。
『American Epic Episode 1: The Big Bang』

『American Epic Episode 1: The Big Bang』

それから、今回、J.ハートを取り上げようと思ったのは、先ごろ、ひっそりと劇場公開されたドキュメンタリー映画『American Epic Episode 1: The Big Bang』で彼のことが紹介されていたからである。映画はアメリカのポピュラー・ミュージックのルーツを探るべく、カントリー、フォーク、ブルース、R&B、ネイティブアメリカン、ハワイアン、ラテンといったジャンルへの発展を全4パートに分けて、5時間を越えるボリュームで描くもので、まず「Episode 1ザ・ビッグバン〜元祖ルーツ・ミュージックの誕生」が公開された。都市部でもごく限られたシアターでのみ公開されたようだし、あまりメディアも宣伝していないことから見逃した人も少なくないようだ。続編、さらにはサブスクリプションでの公開など期待したいものだ。製作総指揮には俳優ロバート・レッドフォードや音楽プロデューサーのT・ボーン・バーネット、ミュージシャンのジャック・ホワイトが名を連ねている。監督はバーナード・マクマホン、配給はマーメイドフィルム、コピアポア・フィルムとなっている。
J.ハートがこのドキュメンタリー映画でカーター・ファミリーらとともに紹介されたのには訳がある。少し、生涯をたどってみよう。

OKMusic編集部

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