スーパースターとなったプリンスの
大出世作『パープル・レイン』

1980年代はスーパースターの名に相応しい華やかなソロアーティストが活躍した最後の時代と言っていいかもしれない。プリンス、マドンナ、マイケル・ジャクソンーー。同年代のこの3人はファッションやパフォーマンスを含むビジュアル、才能、発言。何をとっても生まれついてのスターだったように思う。大ブレイク後のプリンス(一時はプリンスの名を捨てて活動)が印象に残っている人にとっては気難しいアーティスト、敷居の高い音楽をやっている人というイメージが強いかもしれないが、代表作のひとつであり、自身が主演した映画のサウンドトラック盤でもあった『パープル・レイン』を聴いたら、本能に訴えかけてくるセクシャルなヴォーカル、下世話さと持ち前の実験精神が混ざりあったキャッチーな楽曲に驚くのではないだろうか。そして、当時、プリンスの音楽と共に青春を過ごした人にとっては今なお、胸をザワつかせる一枚だろう。

プリンスの孤独とエロスが
炸裂した絶頂期

アメリカのミネアポリス出身。1978年にデビューを果たしたプリンスは全ての楽器をひとりで演奏し、アルバムを作り上げた。いわゆる宅録ミュージシャン気質というか、基本的には何もかも自分でやらないと気が済まないタイプのアーティストなのだろう。プリンスの存在を知ったのは、1981年のアルバム『Controversy(邦題:戦慄の貴公子)』で、ジャケットの顔のインパクトだけで音楽を聴いてみたくなった。イケメンだったからというのではなく、むしろ、アクが強すぎというか、カッコ良いとキモいのスレスレのラインを行っているところが気になったのだ。そして、プリンスの音楽、パフォーマンスは期待を裏切らないものであった。ファンクやソウル、ジミ・ヘンドリックスなどのロックに影響を受けたと思われるプリンスの音楽はどこか変態的でエロティックなのに内向的で、規格外の魅力を放っていた。

1982年にプリンスはバックバンドをザ・レヴォリューションズと命名し、2枚組のアルバム『1999』をリリース。この作品が大ブレイクにつながるヒット作となる。マイケル・ジャクソンの「スリラー」が大ヒットしていた時期であり、このあたりからマイケルと比較されるようなスター街道を驀進。そのポジションを決定的にしたのが、1984年にプリンス・アンド・ザ・レヴォリューション名義で発表された『パープル・レイン』だ。このアルバムはビルボードのチャートのトップに24週、君臨し続ける最大のヒット作となり、同名の自伝的映画は日本でも大きな話題を呼んだ。プリンスの若き日の孤独感や音楽への想いが浮き彫りにされるこの青春映画は大人が観たら、ちょっと気恥ずかしい内容だったかもしれないが、映画館に行って、ますますプリンスというアーティストが放つオーラにドキドキさせられた。特にギターを弾きまくりながら歌うステージのシーンはバンドの女性メンバー、リサとウェンディのクールな佇まいも含めて衝撃的だった。
スターであると同時に天才アーティストの名を欲しいままにし、今なお自身の音楽を追求し続けているプリンス。その紆余曲折ある音楽人生の中でこの時期はもしかしたら特殊で大ブレイクへの勝負を賭けたアルバムが『パープル・レイン』だったのかもしれない。が、個人的にはギラギラしていて、《レッツ・ゴー・クレイジー》と歌ってしまう当時のプリンスが一番グッとくる。

アルバム『パープル・レイン』

全米シングルチャート1位を獲得したエキサイティングでゴキゲンなプリンス流ロックンロール「レッツ・ゴー・クレイジー」で幕を開ける本作は、このオープニング曲と最後を飾る8分を超えるグラマラスでメロディが秀逸なバラード「パープル・レイン」が収録されているだけで名盤と呼べるのではないかと思う。プリンスの作品の中でロック色が強いと評されているのも頷けるし、時折はさみ込まれるシャウトも鳥肌モノだが、やはり根底にあるのはファンクなどのブラックミュージックで、そこにニューウェイヴやサイケデリックな要素も加わり、プリンスとしか言いようのない世界を構築している。得意のファルセットが冴える「テイク・ミー・ウィズ・ユー」はメロウでスイートなバラードかと思いきや、後半ではエキセントリックなシャウトが脳天を突き刺し、「ダーリン・ニッキー」は変態度マックスのナンバー。トレンドの音も取り入れたキャッチーなアルバムとは言え、歌もサウンドアプローチも平均値からはみ出しまくっているところが自分にとっては最大の魅力である。

アルバムのライナーノーツに大沢誉志幸は「すごくエッチで卑猥なところがあるでしょ? あの卑猥さが好きなんです」とコメントしているが、プリンスに心酔した岡村靖幸もビートとともにきっと、そういうところにやられたのだろう。真の意味でカリスマと呼べるアーティストのひとり。アルバムを聴いていたら、無性にまた映画が観たくなってきた。何かせずにはいられなくなる欲求を加速させるのがプリンスの音楽なのかもしれない。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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