原点回帰と起死回生を印象付け、新た
なスタートになったチープ・トリック
中期の重要作『永遠の愛の炎』

日本武道館の存在を海外のロックファンに知らしめた『チープ・トリックat武道館』をはじめ、多くの代表作を持つチープ・トリックだが、ここでは中期の傑作と言える『永遠の愛の炎』を取り上げてみたい。ここから彼らのファンになったという人もきっと多いはずだ。

チープ・トリックと言ったら、やっぱり彼らがブレイクするきっかけになった『チープ・トリックat武道館』じゃないの?! そんな声が聞こえてきそうだけど、現在の精力的な活動につながる新たなスタートとなった作品という意味では、“永遠の愛の炎”という邦題が付けられた、この10作目のアルバム『Lap Of Luxury』も忘れることはできない。個人的にも、それまで落ち目のバンドという印象だったチープ・トリックに対する見方が180度変わるきっかけになったという思い出がある。
74年、ロビン・ザンダー(Vo&Gu)、リック・ニールセン(Gu)、トム・ピーターソン(Ba)、バン・E・カルロス(Dr)というラインナップが揃い、シカゴ郊外ロックフォードを拠点にライヴ活動を始めたチープ・トリックは、その3年後の77年、セルフタイトルのアルバムでデビュー。最初の2枚こそ鳴かず飛ばずだったものの、地道なライヴ活動を通して、新しい時代に相応しい存在感をアピールしていき、『チープ・トリックat武道館』('78)、『ドリーム・ポリス』('79)を大ヒットさせた70年代の終わり頃には押しも押されもせぬ人気バンドになっていた。
思えば、彼らはいろいろな魅力を持った不思議なバンドだった。ビートルズをはじめ、ブリティッシュロックの影響が色濃い楽曲を、ブルース臭がほとんどしないハードロックサウンドで奏でる彼らを、音楽マスコミは“ラモーンズ、セックス・ピストルズと並ぶニューウェイヴバンド”と謳った。そんな音楽性は20年後、元祖グランジロックと再評価されるが、その一方で彼らは若い女の子が黄色い歓声を送るアイドルバンドでもあった。王子様キャラのロビンとトム。コメディアン風のリックとバーニー。それぞれにキャラの違いを打ち出したビジュアルは、まるでアニメかコメディ番組から飛び出してきたみたいだった(ある意味、ビジュアル系の先駆けと言えるかもしれない)。要するにチープ・トリックは新しかったのだ。しかし、その後、彼らはメンバー間の軋轢、トムの脱退、迷走と受け止められた数々の挑戦など、いろいろな理由が重なって低迷を続けることになる。80年代のチープ・トリックはほとんど不調だったと言ってもいい。
そんな彼らにとって、起死回生の一枚となったのが『永遠の愛の炎』だったことはご存知の通りだが、そういうアルバムが86年発表の前作『ザ・ドクター』のセールスがガクンと落ち込んだせいか、レコード会社の要求と思しき外部ライターを起用せざるを得なかったというバンドにとってもファンにとっても複雑な気持ちになる作品というところが面白い。メンバーだけで作った曲は「ネヴァー・ハド・ア・ロット・トゥ・ルーズ」の1曲のみ。メンバーがソングライティングにかかわっていない曲がエルヴィス・プレスリーの「冷たくしないで(Don’t Be Cruel)」のカヴァー以外に3曲もあって、その中の「永遠の愛の炎(The Flame)」がチープ・トリック唯一の全米No.1ヒット・シングルになり、バンドの起死回生をアピールしたんだから皮肉と言うか何と言うか。
しかし、その「永遠の愛の炎(The Flame)」を含め、このアルバムは決して悪いできではない。サウンドは当時のメンストリームを意識して、多分にソフィスティケイトされてはいるものの、それまでの迷走を思えば、よっぽどチープ・トリックらしい。『オール・シュック・アップ』('80)を最後にバンドを離れたトムも戻ってきたこともあって、メンバーたちにもバンドの原点に戻って、もう一度やり直そうという気持ちがあったにちがいない。ジャケットのアートワークもイケメン組が表面、お笑いコンビが裏面という初期のコンセプトが復活している。
「永遠の愛の炎(The Flame)」をはじめ、ロビンの歌声が意外なほどはまって、全米4位まで昇った「冷たくしないで(Don’t Be Cruel)」、そしてスマッシュヒットになった「ゴースト・タウン」と、このアルバムからは3曲のシングルヒットが生まれた。中にはチープ・トリックがバラードを歌う必要があるのかと「永遠の愛の炎(The Flame)」や「ゴースト・タウン」を認めたがらないファンもいるようだが、チープ・トリックの持ち味は決してハードロッキンなサウンドとぶっ飛んだ歌詞だけではなかったし、一時期、「永遠の愛の炎(The Flame)」をライヴでやらなかった彼ら自身がその後、演奏するようになったんだから、僕らファンは彼らの代表曲のひとつとして誇りに思うべきだろう。
バーニーは健康上の理由からツアーには参加していないが、スタートから40年経った現在もチープ・トリックは精力的に活動を続けている。それはやはりここで今一度、バンドの原点に立ち返ったことに加え、それが大成功を収め、その後の活動の礎になったからこそだ。それを思えば、絶対に忘れられない。何だかんだ言いながら、ファンはみんな、このアルバムが好きなんじゃないかな。
目下の最新アルバムは09年の『The Latest』。13年には『SUMMER SONIC』に出演するため、久しぶりに日本にもやって来た。リックは先日、フー・ファイターズの最新アルバム『ソニック・ハイウェイズ』にゲスト参加して、素晴らしいギタープレイを披露していたが、チープ・トリックもそろそろ新作を届けてくれてもいい頃だ。

著者:山口智男

OKMusic編集部

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