ラウンジ・リザーズがジャズ界からパ
ンクへの返答としてリリースした驚愕
のデビューアルバム

以前に取り上げた、ニューヨーク・パンクのコンピ盤『ノー・ニューヨーク』(‘78)で、圧倒的な存在感を漂わせていたのがD.N.Aのアート・リンゼイ。そのアートがD.N.Aと並行して参加していたのがラウンジ・リザーズだ。このグループはパンクロックにかなり影響されていて、ジャズバンドにもかかわらず破壊的なサウンドが持ち味だった。彼らのノンジャンル性は、ロックとジャズ双方に影響を与え続けたと言っても過言ではない。特に、今回紹介するデビュー盤『ザ・ラウンジ・リザーズ』におけるアートの切れ味鋭いプレイはギター演奏の常識を覆し、その後多くのフォロワーを生むことになる。ただ、アートは本作リリース後、ギターのチューニングすらできないという理由でグループを解雇されているため、2枚目以降はパンク的な要素が半減してしまった。

ジャズとロックの接点

70年代後半に始まるデジタル機器の進歩によって、ロックやソウルなどのポピュラー音楽は、技術的な革新を遂げることになるのだが、80年代に入るとアナログ録音からデジタル録音へと劇的に変化していく。スタジオ録音時にはMIDI機器(1)でつながれたデジタル・シンセサイザー、サンプラー、シンセドラム、シーケンサーなどが使われるようになる。70thロックでは花形であったはずのギターは隅に追いやられ、各種キーボードが主流となっていく。
そんなわけで、80年代初頭はYMOに代表されるようなキーボードを多用したテクノポップが急増するわけだが、それと同じ頃、ジャズ界でもデジタル機器を多用したサウンドがブームになっており、ロックとジャズはそれまでにないぐらい音楽的に接近することになる。

マイルスが先導したフュージョン音楽

すでに70年代の初めには、ジャズ界の天才マイルス・デイヴィス(2)は、自身のグループのエレクトリック化を進めている。マイルスのグループに在籍したハービー・ハンコックやチック・コリアらは、マイルスの音楽を自分たちなりの方法論で押し進めることになり、ジャズにファンク、ソウル、ロックの要素を加味した“フュージョン(初期にはクロスオーヴァーと呼ばれた)”音楽を創造する。
フュージョン音楽は耳触りが良く、演奏技術的にも優れていただけに、大人のリスナーに好まれた。社会人に受けるということは商業的な成功を意味することでもある。だんだんとイージーリスニング音楽のようなサウンドが増え、結果としてパンクロックやワールドミュージックなど、骨のある音楽が脚光を浴びることになった。マイルスが先導したフュージョン音楽は、もっと泥臭く黒っぽいものであったのだが、大手レコード会社の“耳触りの良さ”ばかりを追求する商法のせいで、マイルスが意図した“ジャンルを超えた音楽のごった煮”とは違ったものになってしまったのである。

生ぬるい音楽に喝を!

70年代の半ばには、ロックからAOR(3)に、ジャズからフュージョンにと、売れる音楽は変化していくのだが、どちらも毒にも薬にもならない軽いサウンドばかりになってしまう。ロックもジャズも、元はと言えば若者の精神を代弁するような音楽であっただけに、若者たちは聴くべき音楽を失くしてしまっていた。
そこに喝を入れるかのように登場したのがパンクロックである。演奏が下手でも、歌が拙くても、パンクロッカーたちは、大切な“スピリット”を持っていたから若者たちから圧倒的に支持されたのだ。しかし、パンクロックも登場から2〜3年後には大手レコード会社に絡め取られ失速することになる。
しかし、78年にリリースされたニューヨーク前衛派たちのコンピ盤『ノー・ニューヨーク』は、真のパンクスピリッツを持ったアルバムとして、世界の音楽マニアたちを狂喜させた。それはオールドウェイヴでもニューウェイヴでもなく、時代に媚びない芸術という意味で“ノーウェイヴ”(4)と呼ばれたのだが、その中心にいたのがD.N.Aのアート・リンゼイである。

ラウンジ・リザーズ結成

79年、すでにムーブメントになりつつあったノーウェイヴの本拠地ニューヨークで、サックスのジョン・ルーリーとエヴァン・ルーリーの兄弟を中心に、ギターのアート・リンゼイ、ベースのスティーヴ・ピッコロ、ドラムのアントン・フィアの5人で結成されたのがラウンジ・リザーズだ。
ジョン・ルーリーはグループのリハーサルの合間にジム・ジャームッシュ監督の映画に出演するなど、グループのデビューより先に俳優デビューを果たしている変り種だ。80年代の日本でもジャームッシュ映画は人気があり、監督デビュー作の『パーマネント・バケーション』(‘80)にルーリーは出演、音楽も彼が担当し、彼の名前は徐々に広まっていった。
ラウンジ・リザーズの音楽がジャズであることは間違いないが、感性はむしろパンクロック寄りで、自分たちの音楽を“フェイクジャズ(偽のジャズ)”と呼び、ジャズとロックの境界線上で勝負しようと考えたようだ。彼らの音楽は『ノー・ニューヨーク』にも参加したジェームス・チャンス&ザ・コントーションズ(5)に影響されていると僕は思うが、ジェームス・チャンスはパンクロック側から出てきたミュージシャンなので演奏が粗すぎるという欠点があった。しかし、ラウンジ・リザーズは基本的にはジャズ側なので、アートのギター以外は都会的で落ち着いた演奏が聴ける。ラウンジ・リザーズの魅力は、アートの狂気を他のメンバーがどう処理するかにあると思うのだ。

本作『ザ・ラウンジ・リザーズ』につい

もう答えを述べてしまったが、もう一度言う。ラウンジ・リザーズの魅力は、アート・リンゼイの暴力的なギターワーク(一度聴けば分かる)を他のメンバーがどう処理するかに興味を惹かれるのだが、ジャズ界の巨人セロニアス・モンクの作品のカバーも、彼ら独自のパンク的解釈が見え隠れして楽しめる。全13曲、どの曲もカッコ良く、前衛的でユーモラス、変態的でパンキッシュだ。アルバムを通して聴くと、彼らの音楽がロックとジャズの双方に影響を与えた、その意味が分かると思う。
特に聴いてもらいたいのが1曲目の「Incident On South Street」。曲名を訳すと「南通りの事件」あたりになるだろうが、聴いてみると、間違いなく通りで起こった殴り合いの曲だということがはっきり分かる。サックス、ピアノ、ベース、ドラムが背景を演じ、人間同士のぶつかり合い(殴り合い)をアートのギターが的確に表現してみせるのだ。
ラウンジ・リザーズの音楽は映画音楽のようでもあり、効果音のようでもある。パンクロックのようでもあるし、古いジャズのようでもある…というふうに、音楽・映画・芝居など、複数の芸術的要素が絡み合い、彼らにしかできない独特の音楽を創り出しているのだ。
本作のプロデュースを担当したのは、テオ・マセロ。彼はマイルス・デイヴィスのフュージョン期にあたる70年代を支えた敏腕プロデューサーだ。彼がラウンジ・リザーズのデビュー作品をプロデュースしたのは偶然だろうか? 僕にはそうは思えない。このグループの革新的な“何か”を感じたからこそ、プロデュースを引き受けたのだと思う。

『ザ・ラウンジ・リザーズ』をリリース
後の活動

残念ながら本作をリリースしたあと、アート・リンゼイ、アントン・フィア、スティーヴ・ピッコロはグループを脱退、アートはアンビシャス・ラバーズを、アントンはゴールデン・パロミノスを結成、それぞれ別の道を進むことになるのだが、どちらも80年代のロック界に多大な貢献をしたグループだけに、彼らが非凡な才能を持っていたのは確かである。
2人が抜けたあとのグループは、ギターにマーク・リーボウ、ベースにエリック・サンコ、ドラムにダギー・バウンを迎え、ホーンセクションも追加して2nd『ノー・ペイン・フォー・ケイクス』(‘87)、3rd『ヴォイス・オブ・チャンク』(’88)をリリースするのだが、どちらも素晴らしい内容であった。その後、ライヴ活動はするものの何度かの休止状態に陥り、98年に10年振りの4th『クイーン・オブ・オール・イアーズ』をリリースするが中途半端な仕上がりで、僕はここで彼らへの興味は尽きてしまった。
90年代になると“メデスキ、マーティン・アンド・ウッド”のようなジャムバンド系の凄腕ジャズグループが登場し、ニューヨークのノーウェイヴ・ジャズシーンは、また新たな時代を迎えることになるのである。

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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