潜在的なオルタナティブ性が
開花したトム・ウェイツ中期の
傑作『レイン・ドッグ』

『Rain Dogs』(’85)/Tom Waits

『Rain Dogs』(’85)/Tom Waits

トム・ウェイツは異色のシンガーソングライターとして1973年に名作『クロージング・タイム』でアサイラムレコードからひっそりとデビューした。レーベルメイトのイーグルスが彼の初期の名曲「オール‘55」を3rdアルバム『オン・ザ・ボーダー』('74)でカバーしたことで、その存在は広く知られることになる。1980年までにアサイラムから7枚のアルバムをリリースするも商業的な人気は得られなかったが、ミュージシャンズ・ミュージシャンとして音楽業界では大きな支持を集める。今回取り上げる『レイン・ドッグ』はアイランドレコードに移籍しての2作目にあたり、彼がニューヨークに移住してからリリースした初のアルバムだ。ジョン・ルーリーやマーク・リボーといったニューヨークのオルタナティブジャズ(当時はフェイクジャズとかパンクジャズと呼ばれていた)のアーティストたちが参加、創造性に満ちたオルタナティブな傑作である。

芝居がかったスタイルが本物に…

70年代初期のSSW系アーティストの特徴と言えば、ジーンズ&Tシャツに代表される“飾らない普通の振る舞い”であった。ところが、トム・ウェイツは場末のバーで酔っ払いながらタバコをくゆらせピアノに向かうという不健康なイメージが売りで、とにかく芝居がかっていた。彼のデビューアルバム『クロージング・タイム』のジャケットが当時の彼の全てを物語っており、77年の初来日時は彼の役者のような振る舞いがSSWファンの失笑を買うこともあった。

それが彼の計算だったのかどうか確かめる術はないが、70年代後半にはシルヴェスター・スタローンの監督デビュー作『パラダイス・アレイ』(‘78)にチョイ役で出演、80年代に入ると俳優としてもジム・ジャームッシュ作品を中心に頭角を表すようになる。

大きな転機となるサウンドトラック制作

アサイラムでの最後のアルバム『ハート・アタック・アンド・ヴァイン』(‘80)に収録された「オン・ザ・ニッケル」は、80年に公開された同名映画のタイトル曲で、ウェイツはこの映画のために他にも4曲を書き下ろしている。『オン・ザ・ニッケル』はインディーズ映画ということもあり公開はすぐに打ち切られるものの、後にはカルト的な扱いとなり復刻、現在はブルーレイでもリリースされている。これがひとつのきっかけで、映画『ゴッドファーザー』で知られるフランシス・フォード・コッポラ監督から『ワン・フロム・ザ・ハート』('82)の音楽を依頼され、このことがウェイツの音楽を大きく変革させることになる。

コッポラ監督はウェイツの『異国の出来事(原題:Foreign Affairs)』(‘77)に収録されたベット・ミドラーとのデュエット「アイ・ネバー・トゥ・ストレンジャーズ」を聴き、『ワン・フロム・ザ・ハート』で再現したかったようだ。この映画のサウンドトラックでウェイツの相手歌手には、大物カントリーシンガー、ロレッタ・リンの妹でポップ・カントリーのクリスタル・ゲイルが選ばれた。ウェイツが書いたオリジナルの楽曲自体は王道の映画音楽に仕上がっており、関係筋からは大きな評価を受けている。82年のグラミー賞ではオリジナル楽曲賞にノミネートされるなど、彼の名は一躍世間に知られることとなった。

この映画の現場で知り合ったのが、後のウェイツの伴侶となるキャスリーン・ブレナン。彼女はこの映画のシナリオ編集をしていた。彼女はまた音楽マニアでもあり、ブルースから現代音楽に至るまでジャンルを問わず造詣が深かったようだ。彼女の豊富な知識と卓見による助言で、ウェイツの音楽はこれ以降、変わっていくことになるのである。

ちなみに、前述の『異国の出来事』の表ジャケットには男女ふたりがぼんやりと写っている。男性はもちろんウェイツで、女性は当時ウェイツと付き合っていたリッキー・リー・ジョーンズ(デビュー前)である。

OKMusic編集部

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