ジェフ・ベックの名演を収めた
スティーヴィ・ワンダーの
傑作『トーキング・ブック』

『Talking Book』(’72)/ Stevie Wonder

『Talking Book』(’72)/ Stevie Wonder

ジェフ・ベックの訃報があってからだいぶ日が経った。でも、今もなおSNS上には唐突に天空に旅立ってしまったギターヒーローを惜しむ書き込みが途絶えない。彼の追悼号のような体裁の雑誌、ムックが書店に並び出したタイミングなので、彼を偲ぶ声はまだ当分続くだろう。このコラムでも彼が亡くなった際には追悼を兼ねたアルバム紹介を書かせていただいたわけだが、その際に過去のアルバムをおさらいしたせいか、今も何かの拍子に彼のギターが脳内に鳴ることがある。簡単に忘れられる人ではない。それで、本人のアルバムではないけれど、彼もセッションで参加したスティーヴィ・ワンダーの『トーキング・ブック』も聴き直し、取り上げておきたいと思った次第です。なお、スティーヴィの名作『キー・オブ・ライフ』に焦点を当てたコラムも以前のこの連載にありますので、ぜひ併せてご覧ください。
■『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』
スティービー・ワンダーの『キー・オブ・ライフ』は黒人音楽がソウルを超えた瞬間を捉えた奇跡的なアルバム
https://okmusic.jp/news/140091

通算15作目となる、
黄金期の幕開けを告げる意欲作

本作はスティーヴィ・ワンダー3部作と言われることになる黄金期を飾る作品のひとつで、シンガーとしてだけでなく、コンポーザー、演奏者として、いよいよその才能の全てを示し始める、才人スティーヴィの代表作となったアルバムだ。何せ若干11歳でモータウンと契約を結び、本作が出た時点ですでに10枚を越えるアルバムのリリースを重ねてきていて、充分にベテランだった“リトル”スティーヴィ・ワンダー。さすがに、60年代も末ともなれば、それまで「モータウンの秘蔵っ子」というか、どことなくアイドル路線みたいな扱い、売られ方をされていたスティーヴィの姿は微塵もない。すでにR&B界を代表する“アーティスト”のひとりなのであり、ほぼ全ての曲を自分で書き下ろすようになり、稀に取り上げるカバー曲も月並みなヒット狙いからではなく、スティーヴィのこだわりで選ばれ、独自のアレンジが凝らされるようになっている。そしてプロデュースも自身で行なう。時にスティーヴィ、若干22歳、という年齢なわけなのだが…。

70年代ともなれば、音楽もまた混然としてくる。民衆に根付くフォークミュージック、新しいアイデンティティーを生み出すことにもなったロックの台頭、スライやJBによるファンク革命、シンガーソングライターの内省的な歌、ジャズに接近したニューソウル、ブラジル音楽、ラテンのリズム…と、あらゆる音楽があふれ、それら全てがスティーヴィを刺激し、彼の身体の中を通過することで、新しい音楽が生まれようとしていた。

OKMusic編集部

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