アウトローカントリー
(レッドネック・ロック)を回顧する
『アウトロー&アルマジロ
:カントリーの騒然たる70年代』

『Outlaws & Armadillos: Country’s Roaring ‘70s』(’18)/V.A.

『Outlaws & Armadillos: Country’s Roaring ‘70s』(’18)/V.A.

2018年にリリースされた『アウトロー&アルマジロ:カントリーの騒然たる70年代(原題:Outlaws & Armadillos:Country’s Roaring ‘70)』はアウトローカントリー(レッドネック・ロックとも言う)好きか、70sシンガーソングライター好きの一部には伝わるかもしれないが、多くの音楽ファンにはその内容がまったく見えないアルバムかもしれない。毎年、テキサス州オースティンで開催される『SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)』は、今では音楽イベントだけにとどまらない巨大フェスとして知られている。では、なぜニューヨークでもロサンジェルスでもないオースティンでこんな大きな音楽イベントが開かれているのかというと、それはオースティンが音楽の街としてアメリカ中に認知されているからである。オースティンが音楽の街として知られるようになったのは、本作のジャケットにも登場するウィリー・ネルソンとウェイロン・ジェニングスに代表されるアウトローカントリーの代表的アーティストによる活躍と、アルマジロ・ワールド・ヘッドクォーターズという奇妙な名前を持ったライヴホールの存在があったことにほかならない。

カントリー音楽の全盛期

白人音楽を代表するカントリー音楽は、テネシー州ナッシュビルの『グランド・オール・オープリー』(1925年にスタートしたラジオの音楽番組)を中心に、50年代には成熟期を迎えていた。当時のカントリー音楽はカントリー&ウエスタンと呼ばれ、田舎のカントリー音楽ファンだけでなく、ポピュラー音楽のチャートにも食い込むほどの都会的なサウンドを身につけるようになっていた。それはナッシュビルからさほど遠くないメンフィスで制作されていた南部ソウル音楽が、60年代に洗練されるようになっていった経緯と似ている。もう少し分かりやすく言うと、日本の浪花節や演歌が昭和歌謡へと変わっていったような感じである。

名ギタリスト兼プロデューサーのチェット・アトキンスやプロデューサーのオーウェン・ブラッドリーが制作するカントリー音楽は「ナッシュビル・サウンド」と呼ばれ、ポップスファンにも受け入れられる垢抜けたサウンドを特徴としていた。カントリーが全盛期を迎えていた50年代の終わりからナッシュビルでは、一流のスタジオミュージシャンたちを使ってカントリー音楽を工場ラインのように量産し続けており、60年代末になるとその均一化したスタイルを嫌って、ナッシュビルから出ていくアーティストは少なくなかった。全盛期のナッシュビル・サウンドこそが日本ではカントリー&ウエスタンと呼ばれ、なぜか日本では今でも、カントリー=カントリー&ウエスタンと捉えられがちであるが、実際にはカントリー音楽は進化を続けていることを忘れてはいけない。

ナッシュビル・サウンドへの反発

「クレイジー」や「ハロー・ウォールズ」などで売れっ子ソングライターのひとりとなったウィリー・ネルソンは、ナッシュビルの保守的なシステムを嫌った代表格である。他にも、モンキーズやフラット&スクラッグスに曲を提供していたマイケル・マーフィー(後のマイケル・マーティン・マーフィー)やスティーブ・フロムホルツも故郷であるテキサスへと戻っている。彼らはみんな、ナッシュビルにはないホームメイド的なオースティンの独特の音楽シーンに魅力を感じていたのである。「ミスター・ボージャングル」を全米でヒットさせたニューヨーク出身のジェリー・ジェフ・ウォーカーは、ネルソンらに触発されてオースティンへの移住を決めているし、ネルソンとともにアウトローカントリーを推進するウェイロン・ジェニングスもナッシュビルでレコーディングを続けてはいたが、オースティン産音楽の良き理解者であった。

カリフォルニア州ベイカーズフィールドで50年代の終わりから活動を始めたバック・オーウェンスがビートルズにリスペクトされ、65年に「アクト・ナチュラリー」(オーウェンスのオリジナルは63年リリース)をカバーするとベイカーズフィールド・サウンドが一気に脚光を浴び、それはオースティンで活動するアーティストたちにも大きな影響を与えることになる。70年代に入るとオースティンに移住するアーティストは増えるが、そのアーティストたちの受け皿が当初は老舗クラブの『スレッギルズ』(ジャニス・ジョプリンはここで腕を磨いた)であり、『アルマジロ・ワールド・ヘッドクォーター』だったのである。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着