ブリティッシュのエッセンスが
凝縮された名作、
ジェスロ・タルの『アクアラング』

『Aqualung』(’71)/Jethro Tull

『Aqualung』(’71)/Jethro Tull

元はブルースバンドとしてデビューしたジェスロ・タル。イアン・アンダーソンを中心として、アルバムを発表するたびに目指す音楽に近づいていく。今回取り上げる『アクアラング』は彼らの4枚目のアルバムであり、ハード、プログレ、ブリティッシュフォークなど、当時の英ロックのエッセンスが詰まった名作に仕上がっている。ヒットを狙ったキャッチーな楽曲は収録されていないものの、英チャートで4位、アメリカのチャートでも7位まで上昇する結果となった。緻密なサウンド構築と奔放で豪快なライブパフォーマンスで世界的に評価が高まるのだが、本作『アクアラング』こそがその原点なのである。

ブルースに熱狂する
イギリスのロッカーたち

60年代後期から70年代中期まで、ロックの魅力はギターに集約されていたと言えるだろう。3大ギタリストと呼ばれたエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジをはじめ、イギリスのロッカーたちは多くがブルースギターの習得に勤しんでいた。50年代の終わり頃からすでに本場アメリカのブルースマンたちを招いてのブルースフェスが盛んに行なわれ、多くの若者がギターに魅せられたのである。ブルースには大きく分けると、生ギターを中心としたカントリーブルースとエレキギターが中心のシカゴブルースがあり、イギリスの若者たちはそのどちらにも熱狂し、イギリス独自の進化を遂げることになる。特に前者はブリティッシュトラッドと結び付き、後者はのちのハードロックの萌芽となっていくのである。

ミック・エイブラハムズと
ジェスロ・タル

イアン・アンダーソンはギタリストであったが、新進気鋭のブルースギタリストであるミック・エイブラハムズとグループを結成することになり、イアンはフルートへと転向する。それだけミックのギタープレイがすごかったわけだが、イアンはなぜロックでフルートをやる気になったのか。それはある種の思いつきに近いものがあったのだが、実はフルートの存在があったことでジェスロ・タル独特のサウンドが生み出され、多くのリスナーの耳に残ることになるのである。

ジェスロ・タルはミックのギターを前面にフィーチャーしたブルースロックグループとして67年末に結成される。68年にはブルースフェスに登場し、喝采を浴びた。ミックの卓越したギターテクニックと、ブルースバンドらしからぬフルートの使用は、彼らの名前を印象付けるのに大いに役立ち、その名はイギリス中に広まっていく。

ローランド・カーク

同じ年、デビューアルバムとなる『日曜日の印象(原題:This Was)』をリリースすると、チャートで全英10位となり、新しいブルースロックバンドとして早くも認知されることになった。なぜ、新しいブルースなのかと言うと、このアルバムはほぼオリジナル曲で占められており、例外はトラディショナル1曲とジャズのカバーが1曲収められているところ。ブルースロックバンドのほとんどが、ブルース曲をカバーするのが当然であった時代に、ジャズのカバーをするのはとても珍しかったのだ。それもブルースベースのジャズ作品ではなく、モダンなアーティストのカバーで、そのアーティストとは管楽器奏者のローランド・カークである。実はイアン・アンダーソンがフルートをやると決めたのは、このローランド・カークの影響なのである。カークは1度に3本の管楽器を吹くことでも知られる盲目の名プレーヤーで、イギリスではロックファンにも知られた存在であった。

僕がカークの存在を知ったのは、中学3年生の時。当時、土曜日(不定期)にNHKで放送されていた『ヤング・ミュージック・ショー』に出ていたのだ。カークが出ていた回は“スーパー・ショウ”というライヴドキュメンタリーであった。エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、スティーブ・スティルス、バディ・ガイ、コロシアムなど、英米のロック、ブルースのアーティストがジャムセッションを繰り広げるという内容で、そのプレーヤーのひとりにカークが登場するのだが、誰よりもすごいその圧倒的な演奏に釘付けになった。おそらく、このドキュメンタリーを観た人はほぼ全員、ローランド・カークの名が頭に焼きついたと思う。それぐらい驚くべきパフォーマンスであった。

マーティン・バーレの加入

イアンがカークのファンだということは、ジェスロ・タルがブルースロックという狭い範疇にとどまっていられないことは明らかであった。そして、その時はすぐにやってきた。タルの中心にいた生粋のブルースギタリストのミックと幅広い音楽をバックボーンに持つイアンは、音楽性の違いから袂を分かつこととなり、ミックが脱退することになった。ミックの代わりに迎えられたマーティン・バーレはブルースもトラッドも演奏できる引き出しの多いギタリストで、2枚目の『スタンド・アップ』(‘69)で早くも才能が開花し、ジェスロ・タルはすでにブルースロックバンドではなく、さまざまなブリティッシュ音楽をルーツに持つニューロックグループとして、世界に通用する力量を示していたのである。この2ndアルバムはイギリスのチャートで1位を獲得、アメリカでも20位に食い込み、トップグループのひとつとなった。

マーティン・バーレは地味な存在であるが、彼をアイドルとして挙げるアーティストは多く、パール・ジャムのエディ・ヴェダー、エアロスミスのトム・ハミルトン、ジョー・ボナマッサ、ジョー・サトリアーニなどが『スタンド・アップ』の彼のプレイに影響されたと語っている。もうひとつ、このアルバムのまつわる逸話として、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」にそっくりな曲「We Used To Know」が収められていることでも有名だ。確かに似ていることは確かだが、僕にはたまたま似ているだけのような気がするのだが…真相は不明である。

本作『アクアラング』について

続く3作目の『ベネフィット』(‘70)ではキーボードの割合が多くなることで、プログレ的な要素とトラッド的な音作りが絶妙のバランスを醸し出し、よりイアンが目指すブリティッシュロックに近づいた印象を受ける。アメリカのグループにはない湿り気と緻密なアレンジで、ますます評価は高まっていき、このアルバムはアメリカのチャートで11位、イギリスでは3位となる。

そして、ジェスロ・タルが頂点を極めたアルバムのひとつが71年にリリースされる。それが本作『アクアラング』である。本作からキーボード奏者としてメンバーに迎えられたジョン・エヴァンと、ベース奏者としてジェフリー・ハモンド(前作までのグレン・コーニックと交替)が参加、これまでと比べて演奏面の強化が図られ、その成果は本作ではっきりと表れた。

アルバムの作り自体は前作や前々作と比べ大きな変化はないのだが、ハードな曲はよりハードに、トラッド風味の曲はよりトラッド色豊かにと、それぞれの曲の輪郭が明確になることで、各曲のインパクトが強まっている。また、少しキャッチーなリフ等を盛り込むことで、万人受けするようになったことも大きいと思う。

アルバムは名曲「アクアラング」から始まる。この曲のギターリフはキング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」と並ぶブリティッシュロック界の宝ともいうべきだろう。続く「クロス・アイド・メアリー」は、そんなにハードな曲ではないが、プログレやヘヴィメタルのエッセンスすら感じさせる当時としては革新的なスタイルである。アイアン・メイデンがカバーしているのも納得だ。冒頭の2曲のインパクトが強いので忘れられがちだけれど、ジェスロ・タル音楽の真骨頂はブリティッシュフォーク的な側面にもあるわけだが、本作ではフルートだけでなくストリングスやメロトロンといった荘厳なバックがついていても、牧歌的な雰囲気をしっかり感じさせてくれるのは彼ららしいし、何より素晴らしい楽曲ばかりで個人的な意見としては、これまでのアルバム3枚と比べて、本作『アクアラング』の完成度の高さは圧倒的だと思っている。

本作以降、『ジェラルドの汚れなき世界(原題:Thick As A Blick)』(‘72)や『パッション・プレイ』(’73)では収録曲が1曲という長尺なものになり、世界中で絶大な人気を誇るようになっていくわけだが、これらのトータルアルバム的なコンセプトのオリジンは『アクアラング』で確立されたものなのである。

最後に、本作のジャケットは秀逸でこれもロック史に残る優れものだ。ジャケットのカバーアートはアメリカの画家バートン・シルバーマンの手になるもので、浮浪者を描いている。浮浪者のモデルは間違いなくイアン・アンダーソンだろう。

TEXT:河崎直人

アルバム『Aqualung』1971年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. アクアラング / Aqualung
    • 2. クロス・アイド・マリー(やぶにらみのマリー) / Cross=Eyed Mary
    • 3. 失意の日は繰り返す / Cheap Day Return
    • 4. マザー・グース / Mother Goose
    • 5. 驚嘆 / Wond'ring Aloud
    • 6. アップ・トゥ・ミー / Up to Me
    • 7. マイ・ゴッド / My God
    • 8. 讃美歌43番 / Hymn 43
    • 9. 後流 / Slipstream
    • 10. 蒸気機関車のあえぎ / Locomotive Breath
    • 11. 終末 / Wind Up
『Aqualung』(’71)/Jethro Tull

OKMusic編集部

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