ガンズ・アンド・ローゼズの『アペタ
イト・フォー・ディストラクション』
は、剥き出しの攻撃性と卓越したテク
ニックが同居した傑作

ガンズがデビューした80年代後半、多くのヘヴィメタル・グループが行き詰っていたように思う。80年代前半から半ばにかけて、アメリカ西海岸からはモトリー・クルーを範としたラット、ドッケン、トゥイステッド・シスターなど、多くのグループが出現して大きな収益を生んではいたが、パンクロッカーが大手レコード会社に飲み込まれていったように、ヘヴィメタルのミュージシャンたちもまたアク抜きされ、様式美のみが目立つようになっていく。そんな中でガンズはデビュー。本作『アペタイト・フォー・ディストラクション』はリリース直後には売り上げが伸びなかったが、内容の素晴らしさだけでなく、ジャケットデザイン変更やMTVの放映拒否などのスキャンダル等も功を奏し、1年後には全米チャートで1位を獲得する。アルバムはリアルな攻撃性とハイレベルのテクニックがパンク的な精神性に支えられており、彼らの代表作というだけでなくハードロックの代表作にも挙げられる傑作だ。

MTVの登場によるロックのビジュアル化

80年代初頭はヒット曲のビデオクリップを24時間流し続けるMTVが開局し、ポピュラー音楽の在り方が革命的に変わった時代である。当時はまだパソコンがなく、もちろんインターネットもケータイも家庭用は存在していない時代。ビデオクリップを作ること自体、莫大な費用がかかるから、大レコード会社に所属するミュージシャンたちは常に映像が流れ収益が拡大するが、中堅どころやインディーズに至ってはビデオそのものを作れず、売れるものと売れないものの差がそれまで以上に開いていった。
対MTV戦略として、カルチャー・クラブ、カジャ・グー・グー、デュラン・デュランなどは、美的なビジュアルイメージを前面に押し出し、音楽というよりは容姿で勝負し大きな注目を集めた。これが第2次ブリティッシュ・インベイジョン(1)の要因となる。要するにMTVの登場で、容姿や服装が重要視され、イギリスのグループはそれを利用することで世界的なヒットにつながっていく。80年代とは、ロックのアイドル化が進んだ時代でもあったのだ。

アメリカの巻き返し

数年経つと、MTVでは似たようなビジュアル系のミュージシャンたちの映像があふれ、ポップスなのかロックなのか区別がつかないほどコマーシャル化してしまっていた。熱心なロックファンにしてみれば、ロックスピリットのないロックなんて聴きたくないわけで、ブリティッシュ・インベイジョンの波は急激に冷めていく。その頃、アメリカでは骨太なハードロックを演奏し、見た目は汗臭さすら感じる無骨なグループが増えてきていた。
中でも、突然『炎の導火線』(‘79)でデビューし、爆発的な人気を得たヴァン・ヘイレンは、ブリティッシュ・インベイジョンに対するアメリカからの返答であったのかもしれない。あのマイケル・ジャクソンですら“R&Bとハードロックの融合”を目指して、アルバム『スリラー』(’82)を制作しているぐらいで、ハードロックのグループは着実にファンを増やしていった。
80年代版ハードロックは、マイケル・ジャクソンの「今夜はビート・イット」(‘83)とヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」(’84)の世界的大ヒット(どちらもギターソロはエドワード・ヴァン・ヘイレン!)のおかげで頂点に達し、アメリカ発のサウンドが見直されていく。ただ、80年代のハードロックは70年代のハードロックとは違い、MTVがあるためにビジュアル的な演出が不可欠であった。ヴァン・ヘイレンは、ビジュアル面でも演奏面でも過不足のないパフォーマンスができた。それだけに大きな人気を得ることができたし、彼らが80年代半ば以降のHR/HMシーンを牽引していく役割を果たす。
82年にメジャーデビューしたロサンジェルス出身のモトリー・クルーは、ヘヴィーなサウンドとグラマラスな容姿で大きな注目を浴びただけでなく、たくさんのフォロワーを生み出し、クワイエット・ライオット、ラットなどとともに“LAメタル”と呼ばれた。彼らに代表されるヘヴィメタルのグループは、特に日本での人気が高く、ビジュアル系ロックのルーツも彼らにある。
しかし、LA産のヘヴィメタルは徐々に様式化(様式化こそがヘヴィメタの醍醐味という人も少なくないが)し、ロックスピリットよりも“外見・様式美・ビッグセールス”のために活動するという本末転倒のミュージシャンたちが増えていった。多くのグループがマンネリに陥り、ファンが離れかけた時、ロック本来の攻撃性とカリスマ性を持った新たなグループが登場する。そのグループこそがガンズ・アンド・ローゼズなのである。

ガンズ・アンド・ローゼズのデビュー

13歳の時から知り合いだった同い年のアクセル・ローズとイジー・ストラドリンは82年にロサンジェルスで合流、いくつかのグループを渡り歩き、紆余曲折はあったものの、スラッシュ、スティーブン・アドラー、ダフ・マッケイガンらとともにガンズを結成する。86年にゲフィン・レコードにスカウトされ、87年にはシングル「イッツ・ソー・イージー」を先行発売、そして待望のデビューアルバムとなる本作『アペタイト・フォー・ディストラクション』をリリースする。このアルバムはリリース当初はチャートで100位内にさえ入れなかったが、じわじわと上昇し、1年後には1位を獲得、現在までにアメリカだけで1800万枚、世界では3000万枚近くを売り上げたモンスターアルバムである。

本作『アペタイト・フォー・ディストラ
クション』について

本作がリリースされたとき、多くのリスナーがガンズをLAメタルのグループだと思ったようだ。実際LAメタルのひとつとして扱われることも多いが、僕は違うと考えている。ガンズはどちらかと言えばパンクロックのミュージシャンに似た資質(攻撃的・素行不良・ドラッグ、酒、女を好むなど)があるように思う。その証拠に、彼らが93年にリリースしたカバーアルバム『ザ・スパゲティ・インシデント?』では、ダムド、デッド・ボーイズ、ジョニー・サンダースらを取り上げているではないか。
アクセル・ローズの変幻自在のパワフルなヴォーカル、スラッシュのスピーディーで確かなギターワーク、過激な内容の歌詞とそれらを巧みに表現した楽曲など、本作の魅力を挙げていけば切りがないが、本作の聴きどころは何よりロックスピリットに満ちあふれているところ。レッド・ツェッペリンやディープ・パープルがパンクロックを知っていたら、ガンズのようなサウンドになっていたかもしれない。ガンズのサウンドはヘヴィメタルというよりは、王道のハードロックに近いのではないだろうか。
収録曲は全部で12曲。中には大ヒットした「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」のようにセンティメンタルなラブソングもあるが、多くは攻撃性を持ったパンキッシュなナンバーで占められ、真のロックが持つ危険な香りが漂っている。
80年代、MTVでオンエアされることとビッグセールスばかりに精力を使い果たし、多くのミュージシャンが忘れてかけてしまっていたロックのエッセンスが詰まった本作『アペタイト・フォー・ディストラクション』こそ、80年代を代表するロックの名盤として後世に語り継がれていくだろう。
来年1月にはオリジナルに近いメンバーで来日することが決まっているので、本物のハードロックを見たいという人は是非!

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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