ブラジルが生んだ
ふたつの巨星が組んだ
一度きりの魂のコラボレーション
『エリス&トム』

『ELIS & TOM』(‘74)/Elis Regina
90年代ぐらいから、ワールド・ミュージック、エスニックといった括りで、米英以外の地域の音楽が盛んに紹介されるようになった。私もそうしたタイミングで日本で初CD化されたアーティスト、アルバムをあれこれ買ったものだ。もっとも、ブラジル音楽、ボサノヴァなどは過去にも何度もブームが起こった。古くはアメリカのジャズ・サックス奏者スタン・ゲッツとブラジルのボサノヴァ・シンガー / ギタリストのジョアン・ジルベルトが組んだ『Getz/Gilberto』(’64)が出た頃もジャズにボサノヴァがミックスされたその新しい感覚に、ブラジル音楽ブームが起こったと言うし(アルバムはグラミー賞 最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム賞など獲得している)、1997年にカエターノ・ヴェローゾが発表した『Livro』がその年に出た多くの米英のアーティストの作品を押しのけて最高の評価を得て、それとともに他のブラジル人アーティストの特集が組まれるなどの動きもあった。近年でも2016年にリオデジャネイロ・オリンピックが開催された時、便乗するような形ではあったが、ブラジル音楽が注目され、リイシューCDなどの発売もあったと記憶している。
前置きがずいぶん長くなったが、今回ご紹介するのはそのブラジル音楽 / ボサノヴァの大傑作、アントニオ・カルロス・ジョビンとエリス・レジーナによる『ELIS & TOM』(‘74)である。専門分野でない畑違いのジャンルであることは自覚しているが、久しぶりに聴いて感激し、どうしても紹介したくなった次第でこの盤を選んだというお断りをしておく。
このアルバムを聴いたのは記憶を手繰ると1988年のイヴァン・リンスの日本公演の頃のことだった。そのブラジル音楽界の重鎮がまだ芽も出ない若かりし頃(1970年)、エリス・レジーナがいち早く才能を認め、リンス作「Madalena」をレコーディングし、ヒットさせたという経緯を知ったからだった。それでエリスという人が気になり、最初に買ったのがこれも名盤の誉れ高い『Elis Regina In London』(’69)で、これはまさに脳天をぶっ飛ばされるような衝撃的なアルバムで、それまでのブラジル音楽のイメージを根底から覆すものだった。このアルバムは次回でご紹介させていただきます。
『In London』があまりにも素晴らしかったので、次いで買ったエリスのアルバムが本作だった。これも、1曲目でやられた。