カリスマ性は今も健在。ロック姉御、
クリッシー・ハインド率いるプリテン
ダーズ の不朽の名盤『愛しのキッズ


 ニック・ロウのプロデュースのもと、1979年にザ・キンクスのカバー「ストップ・ユア・ソビン」でデビューを飾ったプリテンダーズ。今なお現役の彼らの名盤と言えば、まず外せないのが英国を代表するプロデューサー、クリス・トーマスのもとレコーディングされ、1980年にリリースされた1stアルバム『PRETENDERS(邦題・愛しのキッズ)』だろう。後にも触れるがギターをかき鳴らしながら歌うクリッシー・ハインド(Vo&Gu)を初めてTVで見た時は「なんてパンクでR&Rでカッコ良い姉ちゃんなんだ!」とザワザワした。荒削りなギターサウンドとクリッシーのクールでフックのあるヴォーカル、アッパーなナンバーから甘酸っぱいメロディが光るミディアムチューンまで幅広い楽曲が収録された本作はUKチャートの1位を獲得し、ビルボードチャートでも9位というヒットを記録する結果となった。その後のプリテンダーズの躍進を予感させるエナジーにあふれたアルバムである。

クリッシー・ハインドの魅力

 まずはプリテンダーズは聴いたことはないけれど、ちょっと気になるという人がいたら、クリッシー・ハインドと検索してぜひ、最近の写真を見てほしい。彼女は2014年に62歳にして初のソロアルバム『Stockholm』をリリースしたのだが、そのアーティスト写真を見た時はぶっ飛んだ。80年代のクリッシー・ハインドのイメージからまったくと言っていいほどブレていない。いや、むしろ、真っ赤なライダースを着ている1stアルバムの頃の彼女より、今のほうがカッコ良いと思えるぐらいである。なぜ、写真を見てほしいと書いたかというとクリッシー・ハインドは生粋のバンドウーマンであり、その佇まいと鳴らしている音楽が完全と言っていいぐらい一致しているアーティストだからだ。写真を見てピンとこなかったら、プリテンダーズの音楽にもハマらないかもしれない。と言い切ってしまいたくなるほどカリスマ性のあるヴォーカリストであり、ギタリストなのである。
 クリッシー・ハインドは昔から“ロック界の姉御”とか“女版キース・リチャーズ”と評され、男前なR&Rで釘付けにする一方で、女性ならではのキュートさや包容力が垣間見えるメロディアスなナンバーを歌い、世界中のロックファンを虜にしてきた。ザ・キンクスのレイ・デイヴィスとのロマンスはあまりにも有名。恋多き女性でもあり、これだけ凛々しいのに色気があるという意味でも稀有な存在である。
 実際、初めて日本武道館で80年代にプリテンダーズを見た時は「これが生クリッシー・ハインドか」と感極まりそうになった。ギターを弾きながら歌う彼女は想像以上に華奢で自然体だった。ムリしてロックスターを演じているわけでもなく、ロックキッズがまんま成長したような攻撃性と繊細さを合わせ持つ佇まいが今でも胸に焼き付いている。
 ちなみに1stアルバム『愛しのキッズ』のメンバーであるジェイムス・ハニーマン・スコット(Gu)とビート・ファーンドン(Ba)はドラッグにより他界。その悲しみを乗り越えてクリッシー・ハインドはマーティン・チェンバース(Dr)とともに新たなメンバーを迎え、傑作アルバム『Learning to Crawl』(1984年)をリリース。このアルバムに収録されている「ミドル・オブ・ザ・ロード」は個人的にプリテンダーズの一番好きな曲でもある。

アルバム『PRETENDERS(邦題・愛しのキ
ッズ)』

 ザ・キンクスのカバー「ストップ・ユア・ソビン」とジェイムスとピートの共作によるインスト「スペース・インヴェーダー」(当時、メンバーはインヴェーダーゲームにハマっていたらしい)を除いて、曲は大半がクリッシー・ハインドの手によるもの。前半はギターのカッティングと時にマシンガンのようにまくしたてるヴォーカルがイキのいいロックナンバーが続くが、その後のプリテンダーズの世界的な成功につながるヒントは実は後半に収録されているメロディックなナンバーにあるのではないかと思う。色褪せることのない「ストップ・ユア・ソビン」に続いて収録されているヒットシングル「愛しのキッズ」はニューウェイヴとオールデイズが融合したようなミドルチューンだが、ギターのフレーズといい、甘酸っぱいメロディーといい、不変の名曲。男気と色気を兼ね備えたクリッシーのヴォーカルの真骨頂と言える「恋のプラス・イン・ポケット」(UKナンバー1ヒットを記録)もポップセンスが光る曲で、バラード「涙のラヴァーズ」もメンバーチェンジ後のプリテンダーズのスケール感を予感させるものがある。このあたりが、プリテンダーズが紅一点の粋なロック姐ちゃんがいるロックバンドで終わらなかった理由のひとつだと改めて聴いて思う。この後にリリースされたアルバムも名盤が多いので、ぜひ!

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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