アルバート・リーの
超絶ギターが聴ける
エミルー・ハリスの傑作
『真珠の船』
グラム・パースンズというアーティスト
グラムに大きな影響を受けたアーティストは前述のローリング・ストーンズやイーグルスの他、リック・グレッチ(ブラインド・フェイス)、エルヴィス・コステロ、クリッシー・ハインズ(プリテンダーズ)、REM、ベック、シェリル・クロウ、レモンヘッズ、ティーンエイジ・ファンクラブ、ウィルコ、ハスカー・ドゥなどなど、枚挙にいとまがない。特に60年代の終わりから70年代半ばまでのストーンズのアメリカーナ的サウンドはグラムのサポートによるものが大きく、グラムが在籍していたバーズのカントリーロック作品『ロデオの恋人(原題:Sweetheart Of The Rodeo)』(’68)と並んで、カントリーとロックのクロスオーバー化に大きな成果をもたらしたと言えるだろう。そんなグラム・パースンズのソロ作品については別の機会に譲る(必ずやります!)が、グラムをデュエットで支えたのがエミルー・ハリスなのである。
グラムの遺志を引き継ぎ増幅させた
エミルー・ハリス
彼女は69年にエミー・ルー・(現在はEmmylou、デビュー時はEmmy Lou)ハリスとしてアルバム『グライディング・バード』をリリースするものの、中途半端なポップカントリー的内容でまったく売れず、彼女自身忘れたいようなのでこの作品を1枚目とは数えないことが多い。71年、彼女がワシントンD.Cのコーヒーハウスで歌っているところを元バーズのクリス・ヒルマンがスカウト、グラムに紹介する。ふたりは意気投合し、それからグラムがなくなる73年まで、行動をともにすることになるのである。
彼らはフォーク、ロック、カントリー、サザンソウル、ポップスの要素をミクスチャーした新たなサウンドを生み出しただけでなく、リードヴォーカルとバックヴォーカルの常識を覆し、双方がリードヴォーカルでコーラスでもあるという新たなヴォーカルスタイルまでを提示している。特に、このスタイルが完成したグラムの2ndアルバム『グリーヴァス・エンジェル』はカントリーロックの名盤中の名盤であり、エミルー・ハリスはグラムの死後もこのスタイルを継承し、アルバムを発表するたびに新たな音楽性を付加してクリエイティブな活動を続けていく。
エミルーの凄腕バックバンド、
ホットバンド
特に『エリート・ホテル』はエルヴィス・プレスリーのバックも務めたギターのジェームス・バートン、ピアノのグレン・D・ハーディンをはじめ、ベースのエモリー・ゴーディ・ジュニア、ドラムのジョン・ウェア、ペダルスティールのハンク・デヴィートという凄腕のメンバーが第1期のホットバンドとして活躍したこともあり、全米チャートで1位を獲得しグラミー賞も受賞するなど、輝かしい成果を挙げた。グラムの役割は後にカントリー界のスターとなるロドニー・クローウェルが担当、彼もホットバンドでは重要な役割であった。
本作『真珠の船』について
エミルーが再デビューを飾った『緑の天使』はザ・バンドのメンバーに大いに気に入られたことで、彼らの解散コンサート『ラスト・ワルツ』(’76)への出演が決まる。これによってカントリーファンだけでなくロックファンにも彼女の存在が認知され、その人気はますます高まっていく。
そして、リリースされたのが3作目となる本作『真珠の船』である。僕はこのアルバムをリリースされた時に購入、冒頭のグラム・パースンズ作のタイトルトラックでぶっ飛んだ。アルバート・リーの超絶ギターソロである。エミルーのアルバムであるにもかかわらず、間奏と後奏でソロを弾きまくるのだ。ここでの彼のギターはカントリーロック界をはじめ、カントリー界でのギター奏法に新たな流れを作った。90年代半ばまでアルバート・リーのスタイルが主流であったことは間違いない。それだけ本作の演奏は凄かった。実際、今聴いてみても恐るべきテクニックである。このアルバムに衝撃を受けたエリック・クラプトンはお金に物を言わせて、ホットバンドからアルバートを引き抜き、自分のバンドに迎え入れている。クラプトンの『ジャスト・ワン・ナイト〜ライブ・アット武道館〜』(’80)では、アルバートの超絶テクニックが披露されているので聴いた人も多いだろう。
もちろん、タイトルトラックだけでなく他も名曲揃いで、エミルーのヴォーカルは冴え渡っている。バックヴォーカルもニコレット・ラーソン(彼女は当時、ハンク・デヴィートの奥さん)、ドリー・パートン、ハーブ・ペダースンら、大物たちが参加している。アルバムは前作同様、カントリーチャートで1位、ポップチャートでも21位となるなど、少なくともエミルーの70年代は向かうところ敵なしの状態であった。彼女は現在までに14のグラミー賞を受賞し、40枚以上のアルバムをリリースしている。
現在の日本はカントリーロック系のサウンドに人気がないので、エミルー・ハリスを聴いたことがない人は多いと思うが、これを機会にぜひ聴いてみてほしい。特に70年代から80年代初期の作品は、時代を問わない名作揃いである。
TEXT:河崎直人