キャロル・キングの『つづれおり』は
全ポピュラー音楽を代表する傑作中の
傑作!

『Tapestry』(’71)/Carole King

『Tapestry』(’71)/Carole King

1971年にリリースされた本作『つづれおり』はキャロル・キングのソロ2作目のアルバム。15週間ビルボードチャートで1位の座を守り、その後302週間チャートインし続け、現在までに2500万枚以上を売り上げたモンスター作品だ。グラミー賞は主要4部門を受賞している。僕自身、何百回聴いたか記憶は定かではないが、楽曲や演奏だけでなく、ジャケット(すみませんLPで)の手触り、写真に至るまで、全ての面で最高の作品だろう。リリースされてから50年近くが経つのに、その音はまったく古くなっておらず、何度聴こうが飽きない。通常、売れることとアルバムの完成度は比例するわけではないが、最高の内容を持ったアルバムがビッグセールスを記録するという、そういう意味でも『つづれおり』は稀有の作品だろう。

白人音楽と黒人音楽が融合した
ロックンロール

1950年代半ばにロックンロールが誕生したことで、アメリカのポピュラー音楽界は劇的に変わったといえる。それまでアメリカのポピュラー音楽界はジャズ、フォーク、ルーツ系(白人系ならカントリーやブルーグラスなど、黒人系ならブルースやR&Bなど)、ラテンなどの音楽がメインで、基本的には大人が楽しむための娯楽であった。それがロックンロールが登場してきたことで、エネルギーの有り余っている低年齢層に爆発的に支持され、あっと言う間に全世界に広まっていく。そもそもロックンロールは踊るための音楽であり、それまでに広く存在していた黒人向けのジャンプブルースやR&Bを白人向けにアレンジしたものである。

リトル・リチャード、ボ・ディドリー、ファッツ・ドミノ、チャック・ベリーら(すべて黒人アーティスト)は、R&Bとロックンロールの橋渡し的な存在として知られるが、ロックンロールという新たな呼び名でティーンのリスナーに向けて仕掛けたのはアランフリードに代表される白人DJであった。一般社会ではまだ人種差別が横行していた時代ではあったが、ポピュラー音楽の内側ではいち早く黒人音楽と白人音楽の融合(クロスオーバー)が起こっていたのである。特にテキサス、テネシー(メンフィスとナッシュビル)、ルイジアナ(ニューオリンズ)などは東部の都会と比べて白人と黒人が近くに居住しており、白人と黒人がどちらの音楽もラジオで聴いていたから、両者の音楽がミックスされて新たなポピュラー音楽が生まれたのである。

エルヴィス・プレスリーの登場と
ポップス

エルヴィスもまた、ラジオで黒人音楽を聴き夢中になった一人である。彼と彼のグループはR&Bをそのまま歌うだけでなく、ロックンロールから派生した新たなロカビリーというスタイルを生み出した。ロカビリーはロックンロールとビル・モンローが創り上げたブルーグラス等をミックスした音楽で、イギリスでも大いに受けた。ビートルズも最初はスキッフルバンドとして活動していたが、このスキッフルという音楽はロカビリーとほぼ同義である。

ロックンロールが生まれたことで、アメリカのポピュラー音楽界は大人向けのものからティーンエイジャーに向けて軌道修正していくことになる。アメリカのポップスは職業ライターが時代に即した曲を作り、その曲に合った歌手が歌うという方法が取られていた。ちょうど、かつての日本の歌謡曲と似たスタイルだ(というか、日本の音楽システムがアメリカの方法論を真似ていた)。

職業作曲家としてのキャロル・キング

キャロル・キングはポップス〜ロックンロールを聴いて育ち、10代初めの頃にはすでに歌手を目指していた。運良くシングルを何枚かリリースすることができたがヒットには恵まれず、ブリル・ビルディング(音楽出版社が集まるビルの名前)に出入りしているうちに職業作曲家として活動するようになる。低年齢にもかかわらず職業ライターとして活動できたのは、彼女の才能はもちろんだが、ロックンロールの登場によってポピュラー音楽のリスナー自体が若い世代だったので、同世代の気持ちを代弁し得たからだろう。

彼女が作曲、彼女の夫であるジェリー・ゴフィンが作詞で、ふたりはヒット曲を連発する。「ウィル・ユー・ラブ・ミー・トゥモロウ」「ロコモーション」「チェインズ」他、ソングライターとして多くの名曲を生み出し、キング=ゴフィンはアメリカポップス界で著名な作家となった。

ビートルズの登場

60年代初期になるとティーンエイジャー向けのポップス作品がかなりのセールスを記録し、50年代半ばから爆発的に躍進したロックンロールはスターの兵役や死亡などで衰退を余儀なくされていた。そんな時、イギリスで結成されたばかりのビートルズが64年にアメリカ上陸を成し遂げ、アメリカのポピュラー音楽界を席巻し、新たな時代の登場となった。

ジョン・レノンはのちに「レノン=マッカートニーのコンビで、ゴフィン=キングのようになりたかった」と語っている。ビートルズは最初こそロックンロールバンドではあったが、ブリル・ビルディング系の曲作りも研究し、メロディアスなロックンロールや職業ライターに負けないポップチューンすら生み出していた。それどころか、ビートルズはロックンロールやポップスのような商業音楽にはない芸術的な感覚を持ったロックすら生み出し、ポピュラー音楽界に新たなムーブメントを創造していくのである。

ビートルズ登場以降の
キャロル・キングの歩み

ビートルズの登場やロックの成熟化に伴って、職業ライターとしての限界を突きつけられた彼女はジェリー・ゴフィンとの結婚生活にも終止符を打ち、新たな道を模索し始める。そして68年、ザ・シティというグループを結成し『夢語り(原題:Now That Everything’s Been Said)』というアルバムをリリースする。メンバーは彼女の2番目の夫でベーシストのチャールズ・ラーキーをはじめ、ジェームス・テイラーやクロスビー&ナッシュのサポートでも知られるギタリストのダニー・クーチと彼女の3人で、ドラムはのちのデレク&ドミノズに加入するジム・ゴードンがゲスト参加した。

このアルバムは売れる曲と向き合ってきた職業ライターの彼女が、売れる売れないにかかわらず自分の書いた歌を歌うシンガーソングライターになるまでの間をつなぐ大切な成果である。内容は都会的でセンスの良いAORといった趣きがあり、何より彼女の歌が瑞々しく心地良い。自分のヴォーカルの表現力を確かめているような感じもあるが、68年という時代を思うと相当レベルの高い楽曲が揃っている。しかし、このアルバムはセールス的にまったく振るわず、これ1枚で解散することになる。早すぎた音であったのかもしれない。

その後、いよいよ70年に彼女は『ライター』でソロデビューを果たすわけだが、「Goin’ Back」「I Can’t Hear You No More」「Up On The Roof」など、他のアーティストに提供した佳曲が多く収録されている。彼女の持ち味のひとつであるポップソウル的な軽やかさはすでに見受けられるものの、全体的に大人しい印象がある。ただ、彼女の作る音楽が好きなら大好きなアルバムであることは間違いない。

本作『つづれおり』について

本作はボーナストラックありのバージョンも出回っているが、オリジナル版の収録曲は全部で12曲。歌、演奏、楽曲、その全てが最高レベルの曲ばかりである。僕は全米1位を獲得し彼女の名前を広く知らしめた「It’s Too Late」のシングル盤を中2の時に買ったのが彼女との出会いで、今でもオールタイムベストテンの上位に確実に入る大好きな曲。ところが、しばらくして本作を買って聴いてみると、どの曲も最高に素晴らしく、今でも1枚の作品に何故これだけの名曲ばかりを詰め込むことができたのか大きな謎である。

そう言えば、70年代にリリースされた日本のシンガーソングライター作品は本作の影響を大きく受けている。このアルバムがなかったら“ニューミュージック”という言葉自体、ひょっとしたら生まれなかったかもしれない。

シレルズの「Will You Love Me Tomorrow」、アレサ・フランクリンの「Natural Woman」、ジェームス・テイラーの「You’ve Got A Friend」など、他のアーティストによって大ヒットしたナンバーをセルフカバーしているのは、前作と同様である。しかし、どの曲も素朴でアーシーな本作のアレンジにはかなわない。さすがは本家というべきか。

アルバムのバックを務めるのは、ザ・シティやジョー・ママのメンバーの他、ジェームス・テイラー、ジャズのサックス奏者カーティス・エイミー、バックボーカルにはメリー・クレイトンやジョニ・ミッチェルなど、錚々たるミュージシャンたちで、同時期のジェームス・テイラーのアルバムのバックミュージシャンとはほとんど同じである。違うのはテイラー作品ではベースがリー・スクラーってことぐらい。

今回はキャロル・キングの代表作というだけでなく、ポピュラー音楽全体を通して最高傑作のひとつである『つづれおり』を取り上げた。もし、キャロル・キングを聴いたことがないなら、これを機会にぜひ本作を聴いてみてください。きっと何か発見があると思うよ♪

TEXT:河崎直人

アルバム『Tapestry』1971年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.アイ・フィール・ジ・アース・ムーヴ
    • 2.ソー・ファー・アウェイ
    • 3.イッツ・トゥー・レイト
    • 4.ホーム・アゲイン
    • 5.ビューティフル
    • 6.ウェイ・オーヴァー・ヨンダー
    • 7.君の友だち
    • 8.地の果てまでも
    • 9.ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー
    • 10.スマックウォーター・ジャック
    • 11.つづれおり
    • 12.ナチュラル・ウーマン
『Tapestry』(’71)/Carole King

OKMusic編集部

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