ヒップホップとルーツミュージックが
交差するソウル・コフィングの
尖鋭的デビューアルバム
『ルビー・ブルーム』

『Ruby Vroom 』(‘94)/Soul Coughing

『Ruby Vroom 』(‘94)/Soul Coughing

パンク、ロフトジャズ、前衛芸術などの洗礼を受け、独自の進化を遂げたニューヨークのダウンタウン・ミュージック。1987年に設立されたライヴハウス「ニッティング・ファクトリー」では、アーティスティックかつパンキッシュな音楽が会場中に溢れていた。ソウル・コフィングは、そんなニッティング・ファクトリーで活躍したグループのひとつで、ヒップホップやジャズファンクをベースにしつつ、アメリカンルーツ音楽の味わいも持ったオルタナティブロックのアーティストである。今回は彼らが94年にリリースした鮮烈な印象のデビューアルバム『ルビー・ブルーム』を取り上げる。

ポストパンクから
ダウンタウン・ミュージックへ

1978年、ニューヨークで活動するアート系パンクロックのアーティストたちによる過激なコンピレーション『ノー・ニューヨーク』がリリースされた。このアルバムは音楽的には稚拙な要素の多いパンクロックから純粋なパンクスピリットのエッセンスのみを抽出し、ロフトジャズ、ガレージロック、前衛音楽等をベースにしながら、新たな音楽として構築したものである。このアルバムに収録されているのは、ジェームス・チャンス&ザ・コントーションズ、ティーンエイジ・ジーザス&ザ・ジャークス、マーズ、D.N.A(アート・リンゼイとイクエ・モリが在籍)という4組で、プロデュースはブライアン・イーノであった。
■『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』:『NO NEW YORK』/V.A.
https://okmusic.jp/news/118872/
80年代になってメジャーの音楽シーンではシンセポップやテクノの時代が到来するが、『ノー・ニューヨーク』に影響されたサーストン・ムーア(ソニック・ユース)やリディア・ランチらのような尖ったアーティストたちは黙々と小規模のライヴをこなしながら力を付けていった。『ノー・ニューヨーク』はジョン・ゾーン、ウェイン・ホーヴィッツ、ラウンジ・リザーズといったジャズ系アーティストにも大きな影響を与え、80年代中頃になるとニューヨークのロウアー・イーストサイドにはジャズ、ファンク、ロックなどをごった煮にしたような独特の音楽文化が生まれるのである。

それらのアーティストは増殖や分裂を繰り返し、気づけば「ノーウェイブ」(当時、流行していた音楽がニューウェイブだったので、それとは真逆の音楽であることから)と呼ばれるアーティストは相当数になっていた。それらのグループを受け入れるべく、1987年にニューヨークのダウンタウンに前述のニッティング・ファクトリーが設立される。その場所はパンクロックで有名になったCBGBにほど近く、会場にはフリースペースとカフェ、そして実験音楽のライヴスペースが設けられた。ニッティング・ファクトリーでは出演者たちの音楽をAORやフュージョンなどの商業的な音楽とは違って、パンクスピリットを持った都会派の“ダウンタウン・ミュージック”と称していた。ダウンタウン・ミュージックとは、特定の音楽を指す言葉ではなく、ニッティング・ファクトリーで主流のフリージャズ、ジャズファンク、ヒップホップ、クレズマーなどの音楽を指す。

OKMusic編集部

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