フィールドレコーディングの祖
アラン・ロマックスが発掘した、
ふたりのブルースマンの
“原石”のような記録

『The Complete Plantation Recordings』(‘93)/Muddy Waters、『First Recordings』('97)/Mississippi Fred McDowell

『The Complete Plantation Recordings』(‘93)/Muddy Waters、『First Recordings』('97)/Mississippi Fred McDowell

ことさら細かく分類する必要などないのだが、ブルースのジャンルの中に「カントリーブルース」という括りがある。カントリーミュージックとブルースの合体という意味ではなく、シンプルに、主にアコースティックギター1本で弾き語るスタイルのものを指している。と言っても、エレキを使った弾き語りの人もいるし、電気/生に限った分類とは言えないとは思うのだが。

代表的なミュージシャンの名を例に挙げると、ロバート・ジョンソンやブッカ・ホワイト、サン・ハウス、チャーリー・パットン、ライトニン・ホプキンスといった人たちが思い浮かぶ。ということから考えられるのは、シカゴ等の工業地帯で勃興した電化ブルースではなく、ミシシッピーやテキサスなどのデルタ、農場などで生まれ、奏でられた古いブルースなのだと言えるかもしれない。今回の主役のひとり、フレッド・マクダウェル(1904〜1972)は先に挙げたロバートジョンソン(1911〜1938)よりも年長であるにもかかわらず、名前が知られるのはジョンソンの死後ずっと後の1959年という遅咲きのブルースマンである。

もうひとり、ブルースの巨人を挙げておきたい。シカゴブルース、モダンブルースの巨人、マディ・ウォーターズ(1913〜1983)。彼はシカゴに活動拠点を移し、エレキギターを用い、チェスレコードからデビューして大成することになるが、出身はミシシッピーの農園でアコギを弾きながら唸っていた。

マディ・ウォーターズとフレッド・マクダウェル。ふたりに関わる共通の人物と、ドラマチックな出会いのストーリーがある。

ロマックスがいなければポピュラー音楽の歴史は異なっていた…とまで言われることになるのが上記のふたりに共通する人物であるアラン・ロマックス(1915〜2002)である。ロマックスはテキサス(オースティン)出身の民俗音楽の録音収集・映像記録・研究家・ミュージシャンとして、今日では知られる人物である。録音収集、“現地録音=フィールドレコーディング”と言い換えればもっと分かりやすいだろうか。

彼は父親のジョン・A・ロマック(1867〜1948)の助手という形で、1930年代からアメリカの、特に南部一帯(アパラチアからミシシッピー、テキサス…etc)を隈なく回り、車に積んだ録音機で現地の音楽を収集した。時あたかも世界大恐慌(1929年)の混乱のさなかで、都市では失業者があふれ…という状況だったはずだが、フランクリン・ルーズベルト大統領による景気回復のためのニューディール政策の文化事業の一環として民謡収集がはじめられることになり、民俗学の担当者として父ジョン・ロマックスが指名されたことによる収集旅行でした。

ロマックス父子の民謡=フォークソングに対する考え方は、それまでの研究者よりも間口の広いものだった。それは南部に伝承されているフォークソングを収集する中に、奴隷としてアメリカに連れてこられたアフリカ系移民の音楽、つまりブルースを含んでいたからだ。それにしても、テキサス育ちとはいえ、今より人種問題が色濃く残る時代に、勝手の分からない南部、幹線道路から外れた村々を回るのは、さそがし心細いものではなかったに違いない。いくら国家事業のお墨付きを得てのこととはいえ、アフリカ系移民ばかりの村へ乗り込んでいくのは、時には身の危険も伴ったのではないかと察せられる。住民にとっても生活習慣も環境もまるで異なるところからやってくる白人父子の姿は奇異なもの、それこそ自分たちに災いをもたらす非道な役人のように映ったかもしれない。例え柔和な笑みを浮かべ、自分たちの目的を説明したとしても、警戒しないわけはなかったはずだ。それでも、結果的に彼らは膨大な量の民謡を集め、最初の年だけでも25枚のアルミニウムのディスクと15枚のセルロイドのディスクに約100曲の歌を収集している。

その後もロマックス父子、後には息子アランはアメリカ中の民謡を収集/録音し、それは大西洋を越えて英国、ヨーロッパ各地、太平洋の島々にまで拡大されていくのだが、彼らの収集した膨大な音源は現在もスミソニアン・フォークウェイズやラウンダーレコードといったレーベルを通じて購入し、聴くことができるほか、動画サイトにはアラン・ロマックス・アーカイブスとして記録映像がアップロードされている。静止画像で音声が中心ですが、中には1933年にロマックス父子によって記録された彼らの最も古い録音を聴くことができます。

ロマックスが残した功績は計り知れず、あの「♬グッドナイト・アイリーン」の作者でもあるレッドベリーを刑務所から表舞台へと引っ張り出したことも挙げられる。同様に、彼らの録音によって埋もれていたミュージシャン、その音楽が多くの知るところとなり、フォーク・リバイバル・ムーブメントの勃興に少なからず影響を及ぼしたことは、とても意味のあることだと言える。

OKMusic編集部

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