哀愁あるメロディーを轟音で料理する
ダイナソーJr.のメジャー移籍第一弾
『グリーン・マインド』

『Green Mind』(‘91)/Dinosaur Jr.

『Green Mind』(‘91)/Dinosaur Jr.

1985年にデビューしたダイナソーJr.は、オルタナティブロックの代表的なグループのひとつである。グループの特徴は、切なく寂しげなメロディーを轟音で演奏することである。リーダーのJ・マスキスのメロディーメイカーぶりは際立っており、その部分においては他のオルタナティブロックのグループの追随を許さない。インディーズで3枚のアルバムをリリース後、本作『グリーン・マインド』でメジャーデビュー、インディーズ時代と比べるとすっきりした印象を受けるものの、グループの本質はさほど変わっていないと言えるだろう。本作が彼らの最高作とは言わないが、ダイナソーJr.の音楽およびオルタナティブロックを世界に広く知らしめたという点で注目すべき重要作である。

ポストパンクからオルタナティブへ

70年代中頃に華々しく登場したパンクロックであったが、数年後には巨大レコード会社に取り込まれてしまい、徐々に骨抜きにされていく。70年代末以降のポストパンク時代になって、気骨ある若いアーティストたちは制約のない音楽をミュージシャン主導で発信するために、その頃一気に増えたインディーズレーベルでの地下活動を選択することになった。70年代とは違ってインディーズ盤の制作や流通はグローバルな広がりを見せていたし、それに加えて若者を代表するメディアとしてCMJ(カレッジ・メディア・ジャーナル)の高支持も相まって、80年代中頃には様々なスタイルのロックが全米各地から現れ始めた。それらはメジャーレーベルからリリースされるロックとはまったく違うテイストを持っており、とりあえず“オルタナティブロック”と呼ばれることになる。

ブラック・フラッグ、ソニックユース、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ピクシーズ、ハスカー・ドゥ、デッド・ケネディーズなどが人気を得て、当初は地域密着型(地元でのライヴ、地元近辺のインディーズレーベルと契約)のスタイルで人気を集めていく。CMJがそれらオルタナティブロックのアーティストたちを取り上げると大きな話題となり、レコードは大いに売れた。また、彼らが一般的なビルボードチャートやMTVに登場することはなかったが、グランジ、スラッシュメタルなどインディーズから発信される新しいロックは、あっと言う間に全米レベルで浸透していった。

全米各地のインディーズレーベル

リスナーに媚びず、やりたい音楽を発信するオルタナティブロッカーを支えたのが、全米各地に点在するインディーズレーベルである。そもそもアメリカのインディーズは、イギリスのラフトレード、チェリーレッド、4ADなど、ポストパンクグループを数多く輩出した気概のあるレーベルに影響を受けている場合が多い。70年末ぐらいから80年初頭にかけての動きとしては、アーティストが自分のレコードをリリースするために設立したり、各地域で活動する音楽マニアが趣味で始めたりすることも少なくなかった。レーベルそれぞれに特徴があるので、その主要なものを少し挙げておく。

サウンドガーデン、マッドハニー、ニルヴァーナなどといった大物オルタナティブロッカーを擁したシアトルのサブ・ポップは、ローファイとグランジを広めたレーベルで、所属アーティストだけでなく所属してない地元アーティストまでをぎっしり詰め込んだサブ・ポップならではのサンプラー盤は、バンドごとのディスコグラフィーも付いていてマニア心をくすぐり、真似をするレーベルが続出した。このサンプラーのおかげでオルタナティブロックのファンは間違いなく増えた。

ハリウッド発のエピタフレコードは、バッド・レリジョンのブレット・ガーヴィッツが中心となって設立されたレーベル。もちろん当初はバッド・レリジョンのレコードをリリースしていたが、オフスプリングのアルバムが1,000万枚売れたことで、トム・ウェイツやマール・ハガードまでリリースする、もはやインディーズとは呼べない中堅レーベルにまで成長している。

ブラック・フラッグのグレッグ・ギンがカリフォルニアのロングビーチで創立したSSTレコードは、ハスカー・ドゥ、ソニックユース、ミニットメン、バッド・ブレインズといった硬派のアーティストたちや、フレッド・フリス、ヘンリー・カイザーなどの前衛音楽のアーティストが所属し、オルタナティブロッカーの間では半ば神格化されていたレーベルだ。ソニックユースのサーストン・ムーアに紹介され、ニューヨークのインディーズからすでにデビューしていたダイナソー Jr.は念願のSSTに移籍し、87年に2ndアルバム『You’re Living All Over Me』をリリース。ニール・ヤング&クレイジーホースのサウンドにターボエンジンを積んだような爆音サウンドを武器に、オルタナティブロック界の雄として注目を集めることになる。

OKMusic編集部

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