『ラスト・フォー・ライフ』はサヴァ
イバー、イギー・ポップの原点的アル
バム

パンクのゴッドファーザーとしてファンはもちろん、数えきれない多くのロックミュージシャンからリスペクトされ、愛され続けているイギー・ポップ。その伝説はパンクの先駆けと評されたザ・ストゥージズ(1967年結成)から始まるが、イギー・ポップとしての名盤と言えば、後に映画『トレインスポッティング』で使われ、再び話題を呼んだ曲「ラスト・フォー・ライフ」が収録されている1977年に発表されたアルバム『ラスト・フォー・ライフ』だろう。親友、デヴィッド・ボウイとともに制作したアルバムであり、名曲が多いと同時にイギーのヴォーカルが圧倒的に素晴らしいのである。

 冒頭に“愛され続けている”と書いたが、個人的にイギー・ポップはロックの衝動が何たるか知っている世界一、チャーミングでサヴァイヴァーなパンクロッカーだと思う。ストゥージズ時代は自分の身体をナイフで切り刻んだり、ガラスの破片の上を転げまわったり、ドラッグに溺れて死にそうになったり…と物騒なエピソードが多いが、つい最近まで(現在67歳)ステージでダイブしていたというから笑ってしまうほどスゴい。そして、いかにもイギーらしい。上半身、裸に皮パンのお馴染みのスタイル同様、その音楽同様、イギー・ポップのイメージは何十年たっても贅肉ゼロのままだ。“転がる石には苔はつかない”という諺があるが、イギーのミュージシャンとしての生き方は、まさにそのもの。ソロとしてすっかり有名になってから、バックバンドのメンバーにピザのデリバリーのアルバイト店員を誘った(真偽のほどは不明)という話を聞いたことがあるが、ウワサだとしても、いかにも、らしい。ロックに取り憑かれたキッズのスピリッツをキープし続けて年を重ね、どんなに尊敬されようとも、重鎮扱いされようとも、イギーはイギーのまま、ステージに立ち続けている。ちなみにイギー・ポップのライヴを初めて観たのは1983年。オープニングアクトはザ・ルースターズで今、振り返ったら何と贅沢な組み合わせだったのだろうと思うが、イギーはヒリヒリするようなロックで圧倒し、客席にいたひとりの女のコをステージに上げ、のちに彼女と結婚してしまった。これには驚かされたが、自分の欲求に素直というか、衝動的というか、このエピソードもやっぱり、いかにもイギー・ポップなのである。
 なお、イギー・ポップは2013年にイギー・アンド・ザ・ストゥージズとしてアルバム『Ready to Die』を発表したばかり。最近では10月1日にリリースされる布袋寅泰のニューアルバムにもゲスト参加。デヴィッド・ボウイとの友情にスポットを当てた映画『ラスト・フォー・ライフ』が製作されているなど、今なおファンをワクワクさせ続けている。

アルバム『Lust For Life』

 ストゥージズが解散、ドラッグでボロボロになっていたイギー・ポップにデヴィッド・ボウイが手を差し伸べ、ソロとして復活させたのは有名なエピソードだが、本作は1stアルバム『イディオット』に続き、ボウイとともにドイツのベルリンで制作、レコーディングした作品。タフに生きる意志を表明したタイトル曲からしてイギーの完全復活を物語る。ジャケットに関してはちょっとさわやかすぎだろ!とツッコミを入れたくなるが、サヴァイヴァーとしての原点的作品。このアルバムがなかったら、現在のイギー・ポップは存在していなかったかもしれないと思うほどだ。ワイルドな面と知的な面が共存しているのも、本作の魅力で、イギーが憧れたドアーズのジム・モリソンの影響を感じさせる「ザ・パッセンジャー」も代表曲と言える名曲。のちにボウイ自身もカヴァーしたバラード「トゥナイト」も素晴らしく、多くの曲を共作しているボウイはこういったスローテンポの曲でイギーの“静”の部分、ヴォーカリストとしての色気を見事に引き出している。「サクセス」など、グラムロックテイストが感じられる曲も収録され、楽曲のクォリティーが高く、ふたりの関係がいかに濃密なものだったかが伝わってくるアルバムでもある。そして、何より内側からエネルギーがほとばしるようなイギーの歌に突き動かされる。ロックレジェンド的名盤!

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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