何度もリイシューされ続ける
永遠の名盤、
ヴァレリー・カーターの
『愛はすぐそばに』(‘77)で聴く、
色褪せない歌声

豪華ゲスト陣、
選りすぐりの楽曲に加え、
可憐さだけでない、
うまさが光るヴァレリーの美声

エレピ、ベース、ドラムのシンプルなイントロに続いてホーン・セクションが加わったところにヴァレリーが歌い出す「ウー・チャイルド」は、元はシカゴのR&Bコーラスグループ“ファイヴ・ステアステップス/The Five Stairsteps”のカバーである。そのことはずっとあとになって知ったのだが、とにかくこの洗練されたアレンジの凝りよう、ソウル風味をきかせたヴァレリーのヴォーカルの素晴らしさに、1曲聴いただけで参ってしまった。2曲目の「リンギング・ドアベルズ・イン・ザ・レイン(原題:Ringing Doorbells In The Rain)」はヴァレリーのオリジナル曲。彼女の歌のうまさ、琴線を震わせるヴィブラートの見事さに唸らされる一方、ただ歌うだけではなく、ソングライティングの才にも感心させられる良い曲だ。「ハートエイク(原題:Heartache)」はローウェル・ジョージが書いた曲で、彼自身、唯一残したソロ作『特別料理(原題:THANKS I’LL EAT IT HERE)』にも収められている美しい曲だ。「フェイス・オブ・アパラチア(原題:Face of Appalachia)」はローウェルとジョン・セバスチャンの作。セバスチャンは元ラヴィン・スプーンフルのリーダーで、ウッドストック・フェスで一人アコギ1本で大観衆の前で歌っていた姿を、映画の中でも観ることができる。この曲では珍しくバンジョーが鳴っている。ハーブ・ピーダースンだろうか。

ここからLP時代はB面に移る。ソウルフルに歌い上げるタイトル・チューン「ア・ストーンズ・スロウ・アウェイ(原題:A Stone’s Throw Away)」では一聴して彼と分かるローウェル・ジョージの浮遊感のあるスライドギターが聴ける。続く「カウボーイ・エンジェル(原題:Cowboy Angel)」はローウェルとヴァレリーの共作曲。ジョン・セバスチャンのハーモニカも陶酔を誘う。そして、「シティ・ライツ(原題:City Lights)」はモーリス・ホワイト、ヴァーディン・ホワイト、フレッド・ホワイト、ラリー・ダン、アル・マッケイらアース・ウィンド&ファイヤー組がバックをつとめる異色のセット。彼らはヴァレリーが本作以前に組んでいたバンド(ハウディ・ムーン)のバンドメイトで、アース〜に楽曲提供をしていたジョン・リンドの呼びかけで参加したのだろう。エンディングの「バック・トゥ・ブルー・サム・モア(原題:Back to Blue Some More)」は再びローウェル、ヴァレリー、そしてビル・ペインの共作曲で、しっとりとジャージーに歌い上げる。全9曲、33分という良い尺だ。

よく練られた楽曲、アレンジもあって、何度聴いても非の打ち所のない出来栄えに感嘆してしまう。なんと言ってもヴァレリーの歌のうまさが光る。何の資料もなく、ジャケット写真だけ見たならば、そりゃカワイ子ちゃん路線で宣伝してみるかとなろうが、歌、音を聴けばこれは見栄えで売るアルバムではない。バックコーラスもほぼヴァレリー自身が担当していると思われるが、さすが専門職らしく、うまい! ところが、これだけ歌えていながら、彼女はフロントに立つよりも、誰かのバックでコーラスをつけるほうが自分にはふさわしいと考える人だった。実際に、控えめな性格で、実はステージ恐怖症だったという証言もある。
そんなヴァレリーのバックコーラスのうまさを実感させる動画がある。リンダ・ロンシュタットの誘いで実現したのだろう、ふたりの共演ライヴ。
リンダ・ロンシュタットにとってヴァレリーは妹のような存在で、あくまで主役(自分)を引き立ててくれ、それでいてきっちり役割をこなし、決めるところはしっかりキメる実力派。パートナーとしてこれほど理想的な人はいなかっただろう。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着