ジェフ・ベックの名演を収めた
スティーヴィ・ワンダーの
傑作『トーキング・ブック』

ジェフ・ベックとの
友情の証として書かれた「迷信」

そして、6曲目が「迷信(原題:Superstition)」である。この曲はジェフ・ベックとのいわくつきの曲であるので、少し触れておきたい。アルバムが完成するとモータウン側はアルバムからの第一弾シングルを「迷信」にすると決定する。これにスティーヴィは抵抗し、本来はジェフ・ベックのために書いた曲で、彼は自分のバンド(ベック・ボガート&アピス)のシングルで出す予定で録音も済ませている。自分が先に出したのではジェフを裏切る行為になる、と。しかし、スティーヴィの主張は通らず、ベックより1年先に「迷信」はリリースされ、ヒットを記録する。当時ジェフは激怒したと報じる記事もあるが、真相は「まぁ仕方ないさ」と、和やかなものだったのではないか。

後年、ふたりの共演シーンを見ると、厚く結ばれた友情は壊れることはなかったと確信する。ジェフも予定通りベック・ボガート&アピスのアルバムに同曲は収録され、シングル・カットされるや人気曲になり、また同曲はジェフのキャリアの代表曲のひとつにもなったのだから、まぁ結果オーライだったのではないか。

Stevie Wonder and Jeff Beck Perform
“Superstition” at
Rock and Roll Hall of Fame
25th Anniversary

ただ、スティーヴィにすれば当時、ジェフに申し訳ない気持ちを抱えていたようだ。そして、彼は改めてジェフに曲を贈る。それがジェフの1975年のソロ作『ブロウ・バイ・ブロウ』 に収められるギターインストの名曲「哀しみの恋人たち(原題:Cause We’ve Ended as Lovers)」だったというわけである。
※なお、この曲でも実はジェフは弾いたという証言もある。クレジットにないところを見ると、先のモータウン側との行き違いで、ジェフのトラックが外された可能性もなくはない。だとすれば惜しい…どころか愚行だ。

スティーヴィのアルバムに戻ろう。7曲目「ビッグ・ブラザー」は珍しくアコースティックギターが聴こえる…と思ったら、これもクラヴィネットをギター風に演奏しているみたいなのだ。少しフォーキーさを漂わせたこの曲は人種差別に対する辛辣なメッセージソングになっているのだが、それと感じさせない爽やかなサウンドはスティーヴィのハーモニカによるところも大きい。この曲もほぼスティーヴィひとりで演奏しているらしい。

8曲目「ブレイム・イット・オン・ザ・サン」もなかなかの名曲だ。スティーヴィの歌のうまさにハートを掴まれる。ドラム、ベースが生み出すグルーヴ感も素晴らしい。そこにTonto’sがプログラミングしたシンセが生み出す独特のサウンドが相乗効果となって彩りを加えている。

OKMusic編集部

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